2015 Fiscal Year Research-status Report
映像文化史の構築:複合メディア環境におけるスクリーンの遍在を理解するために
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26770075
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
大久保 遼 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 助手 (60713279)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 写し絵・幻燈、連鎖劇と関連資料の分析 / データベースの改善 / 展覧会による成果の公開 / 復元上映会による成果の公開 / 研究成果の刊行 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)写し絵・幻燈、連鎖劇の調査:平成26年度に引き続き、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館に所蔵されている写し絵、幻燈スライドの調査を行い、同時代の錦絵、引き札、番付やスライドの販売目録、寄席文化・大衆芸能などの関連資料との関係を分析した。また同館に所蔵されている連鎖劇台本の調査を行い、博士論文では検討できなかった東京以外の各地の連鎖劇の上演の実態について調査を行った。 (2)展覧会の実施:これまでの調査結果を全面的に活用し、早稲田大学演劇博物館で「幻燈展:プロジェクション・メディアの考古学」を企画、平成27年4月から8月にかけて開催し、研究成果を広く一般に公開した。過去の映像文化にかんする資料の展示を行うだけでなく、若手美術作家の協力の下、プロジェクションの仕組みを用いた現代のメディア・アートの展示も併せて行うことで、映画以前/映画以後を横断する「映像文化史の構築」という本研究課題のコンセプトを展示という形で実現することができた。 (3)データベースの改善と復元上映会の実施:調査結果に基づき、「幻燈デジタル・アーカイブ」のデータの更新を行い、成果を公開した。またデジタル化した写し絵スライドの画像に基づき、19世紀末当時の写し絵の復元を行い、7月に当時のスタイルでの上映を行った。この上映会により、広く一般に研究成果を公開するだけでなく、復元された当時の上映スタイルから資料ベースの調査では明らかでなかった映像文化の詳細が判明した。 (4)研究成果の刊行:平成27年度までの成果をまとめ、西垣通・伊藤守編『よくわかる社会情報学』ミネルヴァ書房、石田英敬・吉見俊哉・マイク・フェザーストーン編『デジタル・スタディーズ第3巻メディア都市』東京大学出版会に論考の寄稿を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
展覧会や復元上映会の開催が当初の予想以上の規模と反響を呼び、研究成果の公開としては想定していた以上の成功となった。また現代の映像作家やアーティスト、劇団等の協力を得ることで、単なる過去の映像文化の展示、上映ではなく、現代のテクノロジーや文化との影響関係が明らかになり、映画以前/映画以後にまたがる「映像文化史の構築」という本研究課題の目標にとっても大きな示唆があった点も計画以上の成果であった。
資料の調査・分析だけでなく、研究成果をベースにした展示の企画、復元上映会、ワークショップ等の開催、書籍の刊行、データベースの構築など実践的な研究(アクション・リサーチ)による分析と成果の公開が有機的に結びつき、上述したような成果が得られた。研究プロジェクトにご協力いただいた方々、早稲田大学演劇博物館、東京藝術大学社会連携センターをはじめ関係機関にあらためて感謝したい。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)現代の映像環境の分析:引き続き、現代における写真・映画・テレビにとどまらない映像メディアの利用の広がりについて調査を進める。ミュージック・ビデオ、ライブ会場、現代美術における映像の利用といったエンターテイメント・アート寄りの分野だけでなく、報道や科学、教育といった分野における映像の利用にまで対象を広げ、分析を進めていく予定である。 (2)映像研究の方法論の再検討:映画史、テレビ史等の個別メディア史に代わる「映像文化史」という枠組みで映像の歴史を捉える必要性については、これまでの研究から裏付けを行うことができた。これに加えて、今後は既存の写真論、映画理論では捉えきれない多様な映像文化を分析する方法論・視座の検討を行っていく予定である。 (3)平成28年度は本研究課題の最終年度のため、歴史研究と現代の映像文化の調査の成果を総合し、写真研究や映画研究といった個別メディアに限定されない、より横断的な映像研究のプログラムについて見通しを立てることを目指す。
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Research Products
(7 results)