2015 Fiscal Year Research-status Report
映画・テレビにおけるハンセン病患者の表象についての歴史的考察
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26770077
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
北浦 寛之 国際日本文化研究センター, 研究部, 助教 (20707707)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 映画 / 『あん』 / 「らい予防法」 / ハンセン病 / テレビ |
Outline of Annual Research Achievements |
映画・テレビにおけるハンセン病の歴史的表象を探る本研究では、平成27年度において、「映画『あん』とハンセン病問題」『日文研 第55号』(国際日本文化研究センター、2015年9月)を発表したことが大きな成果であった。 本論文では、2015年に公開された河瀬直美監督『あん』がハンセン病差別の問題を採り上げながら、それを映画演出でどのように表現しているのかという点について詳細な映像テクスト分析により明らかにした。加えて、過去のハンセン病関連映画と比較しながら、本作の違いを考察した。特に注目したのが、観客にハンセン病への適切な理解を求める啓発的な「解説」の導入のされ方である。例えば『砂の器』(1974年、野村芳太郎監督)では「ハンセン氏病は医学の進歩で特効薬もあって現在では完全に回復し社会復帰が続いている」と字幕で表示され、いかにも啓発的な意味合いが強く、そうした傾向は他の過去の作品にも目立っていた。その一方で、本作ではあまり丁寧な解説がなされていないという印象を受け、国立ハンセン病資料館を訪れた際にも、多くの職員の方が同様の見解を述べていた。ただ本作には、1996年の「らい予防法」廃止以降に生まれたであろう、少女がハンセン病について学習しようとする場面があり、原作にはないそのシーンを河瀬監督が挿入した点に、「らい予防法」以後の世代もその問題を受け止めていかなければならないという視点が見え隠れする。 以上のような分析も、平成26年度から継続していたハンセン病関連映画の調査から果たせたものであり、相応の成果が上がったと考える。さらに、ハンセン病元患者からも話を聴き、そこから得た知見も、論文執筆に大いに役立った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、26年度から調査してきた、過去のハンセン病関連映像作品を踏まえて、27年度に公開された映画『あん』を分析し、論文として発表したことで、これまでの研究がそれなりに実を結んだ。ハンセン病元患者へのインタビューから得た知見なども、作品分析には活かされており、研究で調査した内容を反映して執筆できたことに研究の順調な進展を感じている。 それと同時に、研究の発展を目指すために、さらなる資料調査の必要性を感じており、次の成果を上げるための努力を一層しなければならないとも考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、本研究領域においてさらなる発展を目指すにあたり、より徹底した映像資料ならびに活字資料の調査、さらに各地のハンセン病療養所施設を訪れての調査をおこなう必要性を感じている。ハンセン病経験者へのインタビューも引き続きおこない、より歴史的な視点から、ハンセン病の問題を映像との関連で考察していきたいと考えている。 そうした点を意識した成果を、学会等での口頭発表や論文執筆で公開できるよう努力していきたい。
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Causes of Carryover |
旅費支出が予定より少なかったために、今年度予定していた使用金額に残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
より徹底した資料調査をおこなうために、国立ハンセン病資料館や各地のハンセン病療養所への出張を実施していきたい。
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