2014 Fiscal Year Research-status Report
近世後期における歌舞伎役者の信州川路興行に関する調査・研究
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26770090
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
木村 涼 早稲田大学, 文学学術院, 研究員 (70546150)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 近世後期 / 歌舞伎役者 / 信州川路村 / 地方興行 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、近世後期において信州川路村の庄屋関島家主導で行われた江戸・京・大坂の公許の芝居小屋に所属している歌舞伎役者の川路村芝居興行の実態を探るべく、まず調査すべき関連資料が所蔵されている諸機関を『資料目録』、『自治体史』などで網羅的に把握した。芝居興行の時期としては、関島家に残されている史料を鑑み文化期から安政期までを検討した。そして、リストアップしたデータをもとに関連資料を収集するために、関島家に所蔵されていた芝居興行関連資料が寄贈・寄託された早稲田大学演劇博物館をはじめ、広島県立文書館、広島県立歴史博物館、長野県立歴史館、大坂府立中之島図書館を訪れた。これらの機関において、信州川路村に出演していた上方役者に関する「芝居番付」をはじめとする諸資料を収集した。現在、収集してきた史料の翻刻、内容の分析を行っている最中である。加えて、関島家所蔵資料についてはその目録を作成した。 また、本年度、学会報告を2度行った。まず、日本風俗史学会において、「七代目市川團十郎と江戸社会」と題する招待講演を行った。七代目は「歌舞伎十八番」を制定したと知られているが、信州川路村でも関島家に逗留し、芝居興行を開催している。こうした七代目の波瀾に富んだ69年の生涯を追い、風俗取締政策や観客・贔屓との関係をみながら、江戸社会にどのように受け入れられていったのかを講演した。 続いて、社会経済史学会中国四国部会において、シンポジウムテーマを「芸能の発展と地域社会」とする5人の報告者に対するコメンテーターを務めた。そこでは、徳島に古くから伝わる地域芸能の発生、発展、展開、継承、存続のあり方などの報告があった。5報告を聞いて、藍商をバックに徳島という地域において独自に発展してきた芸能と江戸・京・大坂の芸能との相違点や類似点などの比較検討をする重要性を感じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、信州川路村の庄屋であった関島家と七代目市川團十郎をはじめとする歌舞伎役者の芝居興行の先行研究は、菊池明・林京平「信州川路と市川海老蔵」(『演劇研究』第6号 1973年)がある程度で、信州川路村における歌舞伎役者の芝居興行についての研究は進展していない状況である。そのような中、信州川路村関島家の資料群を中心に、本年度調査した諸機関所蔵の資料などから、七代目市川團十郎及び大名題の歌舞伎役者の地方興行の上演形態、契約内容をはじめとする興行実現へのプロセス、興行収支など具体的な構造を明らかにすることができると思われた。 歌舞伎役者の信州川路村の興行による関連資料が、役者の出演料から台本、興行に関わった人々の役割、収支など具体的に関島家という一個人宅に残存していることは稀有であり、また大変に貴重な史資料群である。収集した史料の分析、検討を通じて、歌舞伎役者の興行が信州地域の人々にどのように受け入れられ支持されたのか、地方興行のシステムと三都の興行システムとの相違、また、歌舞伎役者の地方興行が、近世後期の歌舞伎界全般にどのような意義をもたらしたのかを追究することができる要素を提示できると確信した。この確信を支えている関島家の史資料群や諸機関の諸史資料の翻刻は順調に進み、内容も徐々に分析できているので、研究は順調に進展していると言える。 このまま本研究課題を継続していけば、役者の芸態論が中心の現在の近世演劇研究に対して、歌舞伎役者と地域の人々の結びつきから、地方興行を含めた演劇活動を捉えるという、より歴史的な視点からの新たな一石に成り得るインパクトのある方法論を提示できると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の本研究課題に対する推進方策は、まず、本年度諸機関で収集した資料の翻刻、内容の分析を完成させることからである。これらの史資料を、演劇博物館に寄贈・寄託された関島家川路興行関連資料とも接合させ、近世後期における歌舞伎役者による信州川路興行を解明するという論点を明確に提示しながら、その実態をまとめ上げ、学会発表に向けての準備をしていく。さらに学会発表で得た指摘を再度検討し、論文で調査成果を発表する。 信州川路村の芝居興行について、藩政資料や観劇記録から、関島家が、七代目團十郎の信州地域における贔屓であることは明らかである。そしてまた、関島家には歌舞伎関連資料について七代目だけではなく、他の大名題の役者に関しても予想以上に残されていることが、本年度の調査で判明したので、歌舞伎役者の川路村における芝居興行の実態を示すことは可能であると確信した。歌舞伎役者の川路村興行の成果によって、日本各地に残されている歌舞伎役者の地方興行についてもその実態を是非明らかにしていきたい。地域によっての相違点、類似点なども判明することであろう。 本研究は、19世紀における信州川路村庄屋関島家と歌舞伎役者を通して、地域で興行を主催する側の動向、役者及び芝居掛り合いの者として芝居興行に携わる者の役割、観劇する人々の意識などを体系的にまとめ上げ、歌舞伎役者の信州川路興行の全体像を捉えることにより、芸態論中心であった歌舞伎視点ではなく、これまでにない斬新な手法での成果をあげられるように努めていく。
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