2015 Fiscal Year Research-status Report
農業環境から見るエミリィ・ディキンスン――マサチューセッツ農科大学誘致を中心に
Project/Area Number |
26770103
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
吉田 要 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 助教 (80705244)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | エミリィ・ディキンスン / エドワード・ヒッチコック / ウィリアム・スミス・クラーク / エドワード・ディキンスン / アマスト / マサチューセッツ農科大学 / 農業 / 科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はマサチューセッツ州西部のアマストにおける農科大学誘致、並びに地域の農業環境に詩人エミリィ・ディキンスンを位置づけて、農業という観点から彼女の詩作環境を明らかにし、彼女の詩と農業との関係に焦点を当てることが目的であるが、平成27年度は研究発表や論文執筆を通じて、現時点における研究成果の一端を公表した。 第一の成果は、昨年度に執筆した「育まれ成熟する場所――ディキンスンの果樹園」が新英米文学会の機関誌New Perspective第201号(平成27年7月発行)に掲載されたことである。本論文は果樹や果樹園がディキンスンに詩題や詩作環境を提供していたことを論じたもので、農業という観点から果樹栽培とディキンスンとの親和性に迫ることができた。 第二の成果は、かねてより参加していた研究プロジェクト「アメリカ文学と革命」で論集(平成28年度出版予定)をまとめるに当たり、農業と表裏一体の関係にある産業という観点からディキンスン論を執筆したことである。鉄道や電信といった産業革命の産物を題材にした彼女の詩を通して、彼女が産業革命を社会的現実として受け止めていたことを論じた。 第三の成果は「エミリィ・ディキンスンと農村社会――エドワード・ヒッチコックを手がかりに」と題する研究発表を2015年度東京都立大学・首都大学東京英文学会(平成27年12月)で行ったことである。自然神学者・地質学者として当時有名で、ディキンスンもその知見に触れていたヒッチコックが、科学的知識に基づいた農業を推進し、農科大学をディキンスンの地元に誘致しようと尽力した有力者の一人だったという社会的背景にディキンスンを据えた。 その他の成果として、日本エミリィ・ディキンスン学会でワークショップを主導し、共著論文を執筆した。また、エッセイ集『私の好きなディキンスンの詩』(平成28年度出版予定)に小論を執筆した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度の研究実施計画のうち、地元発行の二紙Hampshire Franklin ExpressとSpringfield Daily Republicanの調査・整理は前者ではあまり進まなかったが、後者では資料がまだ十分ではないにしてもまとまりつつある。 ディキンスンの地元アマストの農業に関する議論の整理は、特にヒッチコックの観点で進展した。彼は自然神学者・地質学者としての側面が強いことは確かだが、農業教育にも関心を払っていたことと、農科大学をアマストに誘致する立て役者の一人であったこととが結びついたことは、本研究の大きな進展である。 27年度に計画していた研究で最も進展が乏しかったのは、当時の地元紙を調査する過程で発見した価値の高い記事の紹介文や、ディキンスン関連書籍の書評文の執筆がなかったことである。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究も最終年度を残すのみとなった。最終年度の重要課題は、研究成果を引き続き公表し、本研究の成果を総合的にまとめることである。その第一課題として、「エミリィ・ディキンスンと農村社会――エドワード・ヒッチコックを手がかりに」の発表原稿に修正を加え、研究論文として投稿することを計画している。 第二課題としては、本研究においてヒッチコックと双璧をなす存在であるウィリアム・スミス・クラークを中心にして、アマストの農業と農科大学誘致の状況をまとめ、それにディキンスンを位置づける発表を行うことである。 第三の課題はヒッチコック、クラークにディキンスンの父、エドワードを加えてアマストの農業環境を包括的にまとめ直し、その環境とディキンスンの生活や詩との関係を探ることである。
|
Causes of Carryover |
新聞記事の調査・収集のために計画していた二度の渡米が一度しか実現しなかったことが第一の理由であるが、当初予定していなかった国際エミリィ・ディキンスン学会(2016年6月)に参加するための旅費に充当する方針に転換したため、それに見合う金額を次年度使用金として残した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
パリで開催される国際エミリィ・ディキンスン学会(6月)に参加することを考えているが、治安に対する不安がぬぐえる状況にないため参加を迷っており、現時点では参加しない方向に傾いている。渡欧が実現しなかった場合には、京都市における日本英文学会への出張(5月)と北海道名寄市における学会発表のための出張(8月)、論文校正料、インターネットのアーカイヴ利用料などに充てる予定である。
|