2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26770105
|
Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
松田 智穂子 専修大学, 経済学部, 講師 (90646887)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 演劇 / 劇場 / 文化政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、今日各国で採用されている国立劇場制度と文化政策の生成と運営について、その①一国の近代化過程におけるナショナリズムと連動した政治的機能、および②インターナショナルな文脈の中で、自国のアイデンティティを確立・発信する文化的機能の二点を、複数のケーススタディを取り上げ、その個々の分析を通じて明らかにすることを目指している。 研究計画調書では、本研究を効果的に進めるために同分野の他の研究者から助言や情報を得ることが肝要であると強調したが、本年度はこの点でも大きな成果が得られた。7月には国際演劇学会 世界大会(於・英国ウォリック)で本研究の概論についての研究発表を行い、その際にナショナリズムと演劇の関係を探る研究者と意見交換した。さらに10月には、西インド諸島大学名誉教授Edward Baugh氏来日の折に記念講演(社団法人 日本詩人クラブ主催)の同時通訳を務め、その時カリブ海地域の国立劇場の現在について詳しく聞き取りをし、本研究に関する意見交換を行った。その結果、ジャマイカが、他の英語圏諸国と異なる独自性の高い演劇文化を有している点が確認でき、同国の演劇・劇場史に関する貴重な情報を得ることができた。そのため、ジャマイカの各論に関しては、国立劇場と観光産業との関係という当初予定していた内容を変更し、代わりに20世紀初頭の国民演劇運動とブラック・ナショナリズムとの関連について考察を行う。 そのほか、対象とする個々の事例の演劇、演劇史、劇場史、演劇理論に関する文献や、歴史資料の収集を行った。具体的には、平成27年度以降に発表などを行う予定の①イスラエル国立劇団ハビマー座による『ヴェニスの商人』の2012年ロンドン公演に関する劇評を新聞(Web版を含む)でできる限り集め、②ジャマイカと米国におけるブラック・ナショナリズムとモダン・パジェント運動に関する視覚資料を含む文献収集を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展している。当初の研究計画による本年度の達成目標は以下の2点であった。 ①国立劇場設立と上演作品選定の基準となった社会的状況及び背景思想を把握するための研究計画書などを調べてデータベースを作成する ②カリブ海地域(トリニダード・トバゴ、ジャマイカ、セント・ルシア)に関する各論についての資料収集と分析を進める 上記①については、近年の先行研究書のリストアップを済ませ、1980‐2010年代現在までの『国際演劇年鑑』の論文、報告書をあたった。②に関しては、トリニダード・トバゴにおける事例に関する各論、および2012年に実施したデレク・ウォルコット氏へのインタビュー全文がCritical Theatre Review(平成26年度4月発行)に掲載された。つまり、本研究の重要な部分を占めるカリブの事例について一部の考察を済ませ、口頭発表をすることができた。 本年度より新たに加えた視点である、米国とジャマイカにおけるブラック・ナショナリズムと演劇(とくに20世紀モダン・パジェント運動)の事例については、研究対象とするブラック・ナショナリストのW.E.B.デュボイス(米国)とマーカス・ガーベイ(ジャマイカ)、およびパジェント作品Jamaica Triumphant(1937年、ジャマイカにて上演)に関する研究書、新聞、雑誌記事といった諸文献が、日本での入手が著しく難航した(貴重書であるため英米での所蔵館が少ない、日本の大学図書館とは協定がないため複写・取り寄せ不可、WEB上での購入・閲覧不可)。そのため、平成27年2月、ニューヨーク公立図書館(米国)に赴き、資料調査・収集を実施した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後も各論の研究を進めるが、当初は本年度に終える予定だったジャマイカの事例に関しては引き続き資料収集および分析を進める。また、国立劇場を持たない国・アメリカ合衆国の事例は、平成28年に扱う予定だったが、20世紀のブラック・ナショナリズムの展開とナショナル・シアターという新たな切り口を導入したため、関連の深いジャマイカのモダン・パジェント運動の事案と併せて考察する予定である。 加えて、次年度はイスラエルの国立劇場の事例の研究を進める。
|
Research Products
(5 results)