2014 Fiscal Year Research-status Report
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26770112
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Research Institution | Hiroshima University of Economics |
Principal Investigator |
本岡 亜沙子 広島経済大学, 経済学部, 准教授 (70582576)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / アメリカ文化 / ルイザ・メイ・オルコット / スクラップブック / ファンダム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度、筆者は学会発表1件と論文2本の執筆を行った。研究実績は以下の通りである。
1、日本ソロー学会2014年度全国大会のシンポジウム「コンコードの作家たちと外国文学」において、「ディケンズファンのオルコットがつづる物語」の発表を行なった。本発表では、ルイザ・メイ・オルコットの未公開脚本「ポグラムの素人代理人」(“Pogram’s Lay-vice”)とその草稿2種類を、ヘンリー・ジェンキンスのファンダム(fandom)という視点から精査し、複数人が寄り集まることで想像力を喚起していくオルコットの文芸創作上のメカニズムを明らかにした。本草稿研究をとおし、作家個人の才能として論じられてきた創作が、実は複数の親密な人間たちの交渉によって織り成されていたということを指摘した。 2、単著「19世紀中葉アメリカ文学におけるセレブ作家の登場 ―ルイザ・メイ・オルコットを中心に」を執筆した。本論文では、文学的セレブリティーの登場という視点から、19世紀中葉アメリカ文学の動向について考察した。第1章では、同時代アメリカにおけるセレブ作家の登場を、芸術の市場化に対する同時代作家の是非を含めながら紹介した。第2章ではアメリカに影響を与えたイギリス人セレブ作家のチャールズ・ディケンズについて、第3章ではディケンズとオルコットの関係を、第4章ではセレブ作家オルコットの登場について、彼女の日記や手紙などの一次資料を用いながら詳察した。結果として、大衆受けの良い作品作りに励むオルコットの文芸創作上の戦略を詳らかにすることができた。 3、平成27年3月末に、1の発表原稿を加筆修正した論文「ディケンズに恋して ―ルイザ・メイ・オルコット未発表脚本におけるファンダムの力学」を、国内の学術雑誌へ投稿した。現在、論文採択の結果を待っている状況である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度、筆者は「19世紀後期アメリカにおけるスクラップブックの意義 ―ルイザ・メイ・オルコットを中心に」をテーマに、資料の収集とその精読を経て、学会発表、論文執筆、国内外の学術雑誌への投稿を行なう計画を立てていた。この研究計画と今年度の研究実績を照らし合わせると、筆者の研究は、予想以上の結果が得られたと考えられる。その理由は以下の通りである。
1、オルコットの未発表原稿の研究をとおして、彼女が周囲との密接な交渉を経て創作をしていたことが確認できた。先行研究によると、19世紀中葉から後期のアメリカ女性にとってスクラップブックは、社交の手段であり自己内省の道具であった。オルコットが複数人と社交しながら文芸創作していたとすれば、彼女のスクラップブック作りが社交の手段であった可能性が高まってくる。この仮説の立証については平成27年度に行うが、本年度、上記の仮説が立てられたことは来年度以降の研究成果に結びつくものと期待している。 2、1の報告原稿を論文にまとめ、国内学術雑誌に投稿することができた。 3、セレブ作家の研究をとおして、海外セレブ作家ディケンズや19世紀中葉アメリカの文学者とオルコットにおける、文芸創作上の戦略について比較検討することができた。その結果、オルコットが市場受けを意識する作家であったことが確認できた。彼女の大衆迎合路線は、読み手の反応を意識しながら制作する、1の社交の道具としてのスクラップブックとゆるやかに相通じるものがあると言えそうだ。 4、父親ブロンソン・オルコットの雑誌記事を切り貼りして作ったスクラップブック調の短編小説「トランスセンデンタル・ワイルド・オーツ」について論考することができた。本稿は、平成27年度内に仕上げ、国内外の雑誌に投稿する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度、筆者は前年度の研究成果を基盤にして、「現在までの達成度」の4について記したスクラップブック調の短編小説を主要テクストとした論文を仕上げ、国内外の学術雑誌に投稿する。また、研究計画調書に記したとおり、論文「19世紀後期アメリカにおける女権拡張運動―オルコットのスクラップブックを中心に」を執筆し、学会発表を経て、国内外の学術雑誌に投稿する。さらに、平成27年11月17日に講義する市民講座で、オルコットや同時代女性作家のスクラップブックについて紹介する。
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Causes of Carryover |
平成26年度、筆者は資料収集のため海外渡航を計画していた。しかし、公務のスケジュールとの関係で、渡航が叶わなかった。そのため、平成26年度の海外渡航用経費を平成27年度予算に繰り越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度、筆者はオルコットや同時代の作家にとってスクラップブックの果たす役割や意義をさらに追究するため、スクラップブックに関する資料(図書含む)を購入する。また、長期期間中に2度、オルコットのスクラップブックを所蔵するハーバード大学ホートン図書館や、彼女の生地にあるコンコード公共図書館、実家オーチャード・ハウスへ行き、彼女のスクラップブックに関する研究資料の収集に行き、より徹底した調査を行う。
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Research Products
(2 results)