2015 Fiscal Year Research-status Report
21世紀米国が探求する19世紀アメリカのナショナル・ナラティブ研究
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26770113
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
浜本 隆三 福井県立大学, 学術教養センター, 講師 (00583311)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | マーク・トウェイン / 自伝 / ナショナル・ナラティブ / アメリカ文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度はトウェインの新刊の『自伝』のなかでも特に重要だと思われるQuarles Farm農場での経験について考察をすすめた。とくに、Quarles Farmでの経験を回想する際に、トウェインの筆記に特異な文体の変化が生じている点に着目し、その文体が文語ではなく口語口調になっている点を明らかにしたうえで、その特質がのちの『完全なる自伝』を執筆する原動力となる「自伝的口述筆記」を採用するきっかけになった点を明らかにし、ミズーリ州ハンニバルで開催された、2015年度Mark Twain Conferenceにおいて発表した。 また、トウェイン西部経験の重要性についても再考を加えた。とくにトウェインが若き頃の西部経験を執筆した『西部放浪記』、『ハワイ通信』、『ブラウン氏との旅』、『地中海遊覧記』を横断的に論じながら、トウェインの観察眼の特質である「相対的な視野」の源流が西部にある点を指摘し、その発展過程をトウェインの西部経験の咀嚼方法と合わせて考察し、明らかにした内容は日本マーク・トウェイン協会第19回大会において学会報告した。 さらに、トウェインの人種観についても踏み込み、同時代に結成された秘密結社クー・クラックス・クランの活動についても、トウェインとの接点を模索する試みを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度の研究内容は、主に19世紀を中心にしながらも、現代との結びつきの接点を探るための軸足を整えることができたものと考えている。すなわち、『自伝』研究ではとくに、自伝執筆の原動力となったクオールズ農場での経験について、トウェインの人生および『自伝』内での重要性を明らかにできたことで、農場という牧歌(パストラル)的な表象の重要性を見出すことができた。その価値は、都市とウィルダネスを結ぶ中庸として現代のアメリカにおいても認められており、本研究が主軸とする21世紀の米国が19世紀に見出した価値観の一端を紐解く鍵になると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度では、より現代との結びつきに焦点を合わせて研究を行う予定にしている。とりわけ、2015年の研究において明らかにした、牧歌的表象の価値について、この点を基軸としながらアメリカにおける史的意義を踏まえつつ考察をすすめていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
当初は旅費として計上していた金額であったが、別途で申請した旅費に対する助成が得られたため、旅費使用予定の金額に未使用額が多く生じることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度の研究を遂行するために、また、成果を発表していくために、当初の使用区分である旅費としての使用に努めていきたい。ただ、より研究を促進させるために必要が生じた場合には、研究関係の資料としての購入にも充当したい。
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