2017 Fiscal Year Research-status Report
1945年以降のドイツ語文学における<想起される言語>
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26770118
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮崎 麻子 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (60724763)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 想起の文学 / 文化的記憶 / ドイツ現代文学 / ホロコースト / 東ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の主な実績は、所属研究科で公刊している雑誌「『文化』の解読(17)」に掲載された論文「隣り合わせの運命についての物語 - ゼーバルト『移民たち』の場合」である。1990年代以降の現代文学においてホロコーストがいかに語られるかという問題に取り組んだ。連作形式の作品『移民たち』では、出来事の直接の被害者・加害者が語るのではなく、そうした出来事を回避できた語り手が、やはり回避できた人物たちについて語る。ここで行った分析によれば、そのような設定や、作中での写真の用い方によって、自分では経験しなかった出来事や他人の運命を、もしかしたら自分のものだったかもしれないという可能性とともに伝達するという様式が確立している。そのような文学の語りは、出来事をめぐって、何世代をも超える想起の形式を成している、と位置づけられる。このことについて、ホロコースト文学における立場の交換可能性の系譜という観点から、考察した。 マルセル・バイアーの長編小説『カルテンブルク』(2008)を読了し、さらにそれに関する研究論文を複数入手・読破した。この作品についてはまだ分析や考察が固まっていないが、ゼーバルトの作品と比較可能な要素が複数あることが確認された。両者を比較すれば、想起の文学における語りの様態や、動物学のモチーフといったテーマについて、考察を発展させられそうだという展望を得たため、今後に向けての作業が一段階進んだ。 また、現時点では未刊行であるが、本研究で得た知見を、一般書である『ドイツ文化事典』(丸善出版社)の中で解説することとなった。具体的には「東ドイツ文学と検閲」「東ドイツ崩壊後の文学」「ホロコースト文学」「ブロッケン山」の4項目、合計8ページでの解説記事を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績の概要に記したように、想起の文学にかんする論文を一本発表できたことと、新しい文学作品への取り組みを進めることができた。また、29年度は、文化研究をめぐる読書の幅を広げることができ、新しい視野を得ることができたように思う。具体的には、ジェンダー研究に関する文献を、ドイツ語圏以外の事例を扱ったものを含めて読む機会を増やした。幅を広げた調査によって得られた知見は、来年度以降の研究に生かしていきたい。 いっぽう、予定していた海外での資料収集に関しては、捗らなかったことを追記しておく。いくつかの書籍は海外から取り寄せて購入したが、ドイツの図書館で資料収集を行うことができず、これを次年度に延期した(そのため期間延長手続きを行った)。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、文学における文化的記憶の言説について、言説の内容と形式の両方について考察してきた。具体的な論点と、それに関する文学作品の作者を簡単に記すと下記のようになる。 1 記憶の内容の分析:冷戦後の歴史観(Schalansky)、東ドイツ崩壊とナショナリズムの関連(Wolf, Rosenloecherその他多数)、これらの問題と絡み合う進化(論)や動物のモチーフ(Schalansky, Sebald、Beyer)、など。 2 (文学における)記憶の言説の形式:複数の登場人物(Sebald、Erpenbeck)、非直線的な想起の語り/アイデンティティを揺るがす想起(Wolf, Seiler,その他)、 3 文学にあらわれる記憶の概念:記憶は保存されるという幻想、それにまつわる比喩的形象(Celan, Sebald, 19世紀の引用Hebel) 今後は、それぞれの論点について、これまで個別に分析した事例をもとに、より包括的な視野から議論を発展させることが最も重要な課題となる。その際は、Aleida AssmannやPierre Noraをはじめとする記憶論のスタンダートと、文学における想起とを対照し突き合わせる理論的作業も、既に個々の論文では述べてきたことだが、改めてまとめていきたい。また、その作業と並行しつつ、改めて東ドイツとその後の文学にさらに着目したい。これは2019年にベルリンの壁崩壊30周年を迎え、関連する議論の場が増えるであろうことを見据えての作業となる。2019年に行われる議論に参加していくために2018年度に準備、応募、投稿、といった作業を進めたい。
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Causes of Carryover |
2017年度に予定していた海外での資料収集を行うことができなかった。理由は、親族の病気と、そして自らの体調不良の時期があり、ドイツの図書館に出張する機会を逃してしまったためである。出張してドイツの図書館で資料収集を行うのは、次年度に延期することとした。
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Research Products
(1 results)