2016 Fiscal Year Research-status Report
近代フランスにおける「公」と「私」の空間:文学、美術、建築の創造的発展
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26770122
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Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
福田 美雪 (寺嶋美雪) 獨協大学, 外国語学部, 専任講師 (90632737)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 近代フランス文学 / 近代フランス美術 / 近代フランス建築 / 絵画 / 写真 / アンティミテ(親密性) / 自然主義 / エミール・ゾラ |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究では、パリ・オペラ座、パンテオンなどの具体的なモニュメントに着目し、国家主導で建築される「公的空間」が美のカノンの形成に与えた影響を論じてきた。 年度前半では、19世紀に「パンテオン」を模倣して出版された、エミール・ド・ジラルダンの文学全集「文学パンテオン」や、20世紀に創刊され現在も刊行中の、ガリマール書店の「プレイヤード叢書」コレクションが、フランスにおける外国文学の需要、およびアカデミーや大学における古典的な文学カノンの形成にどのように貢献したかを研究した。また、装丁術や蔵書収集というフランス独自の出版文化が、「書斎」という私的空間や「読書」という個人的営為にも盈虚を与えていることを論じた。 年度の後半には、モニュメントを撮影し、模倣し、コレクションすることを可能にした19世紀の写真術の成り立ちと、写真術が19世紀の視覚文化史におよぼした決定的な影響を研究した。この成果は、2015年ニ行われた獨協インターナショナル・フォーラムの成果として出版される共著、「<見える>を問い直す―アート・イメージ・テクスト」(2017年6月出版予定)に、論考「小説家の暗室―19世紀のアルバムとテクスト」と題して収録される見通しである。 前年度から継続して行っている、草稿を含む文学テクストとイマージュの関係については、エミール・ゾラの初期作品「ある死女の誓い」(1867、本邦未訳)の研究に取り組んでいる。本作品は、新聞連載ののち単行本として刊行されたが、ゾラ作品としては異例なことに1888年にふたたび作家の修正を経て再版されている。3つのテクストの異同の比較研究はまだ着手されていない分野であり、テクストの編集を行った後に本作品の単行本を確定版テクストとして、2017年以降にパリのクラシック・ガルニエ書店より刊行予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フランスでの文献調査こそかなわなかったものの、近代フランスにおける「文学カノンの形成」、「出版文化史」、「写真術の発展史」といった、研究計画立案時には欠けていた視点を補うことによって、「文学、絵画、建築の創造的発展」という本研究の独創的な点、すなわち近代フランスにおいては、あらゆる芸術ジャンルが相互に緊密に発展したという主張を裏付けることができた。また、フィリップ・アモン、パトリシア・ファルギエールら、近代フランスの表象文化研究において重要な著作を発表している研究者に必要に応じて助言を仰ぐことができた。アモン氏、ファルギエール氏は、2017年度中に日本への招聘が実現する見通しである。
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Strategy for Future Research Activity |
近来フランスにおける「公」と「私」の区分を象徴する空間を、文学史、美術史、建築史の観点から、再解釈することを試み、これまでの研究を踏まえて発表・論文執筆を行う。 前者についてはパンテオンや美術館といった、国家主導のモニュメントの成立と受容史についての研究発表を予定している。たとえばパンテオンは共和国の象徴として、革命期に世俗化されたが、ユゴーやゾラなど著名な文学者も葬られており、このような政治的決定がいつなされ、どのように当時の人々に受け止められたのかを考えることは、公的建築が同時代の人々との関係性を明らかにしてくれるだろう。 後者については、写真家(職業写真家から愛好家までを含む)の暗室や画家・彫刻家・建築家のアトリエ(職業画家から美術愛好家までを含む)という私的空間が、芸術作品の生成にどのような役割を果たしたのか、また19世紀の表象文化において、どのようなイメージ体系を生み出してきたのかを考察したい。
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Causes of Carryover |
当該年度に予定していたフランスへの出張が実施できず、確保していた旅費が不要となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の繰り越し分は、旅費に繰り入れ、出張費として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)