2014 Fiscal Year Research-status Report
中国古典文献に描かれる井戸・門・橋についてーー境界としての「場」とその周辺ーー
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26770130
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
喜多 藍(山崎藍) 明星大学, 人文学部, 准教授 (10723067)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 井戸 / 門 / 橋 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中国古典詩歌を中心に、文言小説などの古典文献を題材として、中国古代に井戸や門、橋が如何なる空間と認識されていたかを考察することを目的としている。中国の井戸・門・橋に関しては、文言小説や史書などを用いた先行研究で、この世と異界を繋ぐ境界として描かれているとの指摘がある以外、ほとんど検討がなされていない。しかしこれらを題材にした文献は数多くある。中国古代において境界となる「場」にどのようなイメージが附されていたかを加味することで、作品の新たな風貌を明らかにし、そこに込められた感慨をより正確に理解出来るためである。 平成26年度は「井戸観」および「門観」に関する研究を主として進め、具体的には以下の作業を行った。 (1)井戸や門、橋、瓶(つるべ)を描いた漢闕や漢代画像石に関する研究を進めるべく、平成26年7月から8月に、二松学舎大学専任講師や青山学院大学非常勤講師らとともに武漢に赴いた。その際、孟華平湖北省博物館副館長・張成明研究員・劉徳銀荊州博物館副館長・韓楚文研究員らと面会し、現地考古文物に関して専門的理論や最新の研究現状を直接教授してもらう機会を得た。また、殷代の遺跡である盤龍城遺跡の現地調査や湖北省博物館所蔵の文物、荊州博物館所蔵の文物の分析を行った。 (2)門に関する先行研究の検討、および、文献での描かれ方を検討し、データの一部を完成させた。 (3)以前執筆した井戸観に関する論文2篇を加筆の上翻訳し、中国の学会誌に投稿した。現在査読審査中である。 (4)明海大学教授、横浜国立大学専任講師らと共に、本課題でも利用している日本漢詩を題材にした共著を出版した。本書では、論文・訳注を担当した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究のテーマの一部である「境界としての井戸」「境界としての門」を中心に、志怪小説や唐詩、経書、歴史書、仏典、日本の民俗調査等の幅広い資料を用いて、先秦から現代に至るまで通時的に整理する作業を行えた。また、この領域への一般的な認知度を高めるべく、日本で発表済みの論文を加筆訂正の上、海外の学会誌に投稿することが出来た(現在査読審査中)。以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度からは、井戸に加えて、新たに門・橋を研究対象とし検討を行い、主として門に力点を置くこととしたい。 扉が半分開いた「半開の扉」のモチーフは、例えば四川簡陽石棺では「天門」という文字を伴った闕の図像が発見されている他、四川省蘆山城から出土した王暉伯昭石棺には、玄武・白虎・青龍・名文と半開の扉が描かれ、一人の双髻・有翼・鱗身の人物が、半身を覗かせて片手を扉にあてている姿が見受けられる。「半開の扉」については、考古美術の見地から土居淑子氏の「中国古代の半開の扉」(『古代中国考古・文学論叢』所収、言叢社、1995年)などで言及されている。土居氏は、①前漢では門は閉じられていたが、後漢になって開かれた門扉が描かれた。②門扉には双闕の門扉と殿堂の入り口に当たる門扉がある。③殿堂の門は仙界の門であり不死の世界が広がっている、と指摘する。土居氏の説に従うならば、中国古代において、門は人間世界と天上、仙界といった天上世界の境界であったことになる。この他インドでは王が死ぬと城門に死体を安置していることをイブンバットゥータが記しているが、門に犠牲を供える行為は中国でも行われており、インドでも門が「境界」として機能している証左と考えるべきであろう。周知の通り、楽府詩「東門行」「西門行」以外にも、唐詩・宋詩などに多くの「門」が詠まれた作品があるにも関わらず、これらについての専論はほとんどなく、研究の余地があることは明らかである。先行研究の成果に加え、『古事類苑』『群書類従』『道蔵』『大蔵経』といった道教や仏教経典、東アジアや西洋での民話や旅行記などを資料として門・橋が書かれた文献を分析し、中国古典詩や文言小説解釈の一助とする。
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Causes of Carryover |
当初の計画に沿って予算を使用したが、端数として2000円弱が生じた。余計な物を購入するのではなく、次年度に繰り越すことで有益に使用したいと考えた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2000円弱という金額から、物品費などの使用にあてる予定である。
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