2014 Fiscal Year Research-status Report
接触に起因する言語変容原理の解明に向けた中国青海省大通県の漢語方言調査研究
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26770154
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
川澄 哲也 福岡大学, 言語教育研究センター, 講師 (30590252)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 言語接触 / 漢語方言 / 青海省 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国青海省大通回族土族自治県で主に回族、土族(モンゴル系民族)、漢族によって話されている漢語方言(以下「大通方言」)は、かつて土族が漢語へと言語交替した際に生み出した変種がその起源であると考えられている。本研究は、従来不十分であった大通方言の言語学的調査を実施することにより、以下の3点についての考察を進めるものである: 1) 大通方言の構造特徴の解明:土族と漢族が用いる大通方言それぞれに対する体系的記述を行い、当該方言の音声/文法構造上の諸特徴を明らかにする。 2)“Second-language acquisition strategies”の実態解明:土族が話す大通方言を標準漢語および土族語と対照することにより、言語交替の際に土族が引き起こした各種の変容事象を抽出し、接触に起因する言語変容原理の1つである“Second-language acquisition strategies”の実態解明を進める。 3)“Negotiation”の実態解明:土族と漢族それぞれが話す大通方言を対照することにより、土族が引き起こした各種変容のうち何が漢族にも受容されたかを分析し、接触に起因する言語変容原理の1つ“Negotiation”の実態解明を進める。 初年度である2014年度は夏期(8月)と春期(3月)の2度、それぞれ3週間程度の実地調査を行った。夏期の滞在では調査協力者(土族、漢族各1名)を決定するとともに基礎的な語彙調査を行った。春期は語彙データの補完と基本的な文法項目の調査を行った。現在までのところ、漢族が話す大通方言について分節音の音素分析、および単音節語と2音節語に現れる声調の考察を完了している(音素分析の結果は学術論文として公刊済)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の計画に比べると文法調査の進み具合がやや遅れている。具体的には、漢族に対する調査において、初年度に収集予定だった文データのうち約2割にあたる60文が調査できなかった(土族分は予定通り調査済み)。当地の方言を媒介言語にして調査を進めているため、細部の確認に当初の見通し以上の時間を要したためである。但しこの遅れは次回調査で補うことのできる程度のものであり、全体としてはおおむね計画通り順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
当面は初年度に集めた語彙データに基づき、土族が話す大通方言の音素/声調分析を進める。また2016年夏期までに文法調査を計3度実施し、漢族と土族それぞれが話す大通方言の文法について体系的な記述を行う。それと同時に、収集した言語データに基づき、接触に起因する言語変容原理“Second-language acquisition strategies”および“Negotiation”の実態解明に向けた研究も進めていく。
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Causes of Carryover |
2014年夏期の第1回実地調査において、渡航費が申請時の試算よりも高額になったため、春期の第2回調査用の渡航費を確保すべく、当初初年度に予定していたパソコン等の物品購入を控えたが、実際には春期の渡航費はほぼ試算通りであったため、約20万円の未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2度の実地調査に係る渡航費、および初年度に見送ったパソコン購入の費用にあてる。
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