2015 Fiscal Year Research-status Report
接触に起因する言語変容原理の解明に向けた中国青海省大通県の漢語方言調査研究
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26770154
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
川澄 哲也 福岡大学, 言語教育研究センター, 講師 (30590252)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 言語接触 / 漢語 / 方言 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は夏期に2週間程度、青海省大通県居住の土族、漢族それぞれが用いる漢語方言の実地調査を行い、語彙データ約500、文データ約300を得た。これらデータと2014年度に得たデータを統合し、漢語大通方言の記述、および漢族と土族の間に見られる言語差異の分析を進めている。以下に音声面、文法面からそれぞれ1つずつ、2015年度の主要な成果を記す。 音声面については声調の分析を重点的に行った。その結果、漢族、土族いずれが話す大通方言においても、第1音節要素の声調が語全体に拡張する「語声調(word tone)」の特徴が見られることを明らかにした。一方で、いわゆる「VO型離合詞」の声調については、民族間に一定の差異が確認できた。土族はVO型離合詞を音節ごとに単字調で発音することが一般的で、1語として扱っていない。この点は、VO型離合詞も一般の語と同様に1語扱いする漢族との大きな違いである。 続いて文法面について。接触に因る言語変容のためにSOV構造を多用する大通方言では、漢族、土族ともに各種の後置要素によって格を標示する。2015年度はそれら格標識に対する体系的な調査を行った。与・対格標識の“xa”、具・共同格標識の“lja”など、両民族が共通で使用する要素がある一方、奪格標識については、漢族は“lja”、土族は“sa”を用いるという違いが見られた。この点については、“sa”が土族語由来の要素であり、漢族側が受け入れ難かったという解釈ができるかも知れない。そうであるならばこの事例は、本研究課題の主目的である、接触に起因する言語変容原理の1つ“negotiation”の解明につながり得る重要なものであると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目までに基礎語彙および網羅的な文法調査を行い、民族間の言語差異の分析に進むという当初の目標に達している。但し2015年度春期に計画していた調査を実施することができなかった(所属機関異動に伴う各種作業のため)。そのため、民族間言語差異の考察については若干の遅れが生じている。しかしこれは2016年夏期調査によって補うことができる程度の遅れであるため、全体としては「おおむね順調に進展している」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
民族間の言語差異についての詳細な研究を進め、“negotiation”や“Second language acquisition strategies”といった言語変容原理の実態解明を目指す。また調査で得た各種データをまとめ、大通方言のデータ集の作成も行う。
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Causes of Carryover |
所属機関異動に関わる各種作業により、本来予定していた2016年3月の実地調査に赴くことができなかったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年夏期の実地調査を、申請時に計画していた期間よりも延長して行う。次年度使用額はこの延長分に用いる。
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