2015 Fiscal Year Research-status Report
震災を語る方言談話資料の作成 ―福島方言の記述と震災記録にむけて―
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26770160
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Research Institution | Joetsu University of Education |
Principal Investigator |
白岩 広行 上越教育大学, 学校教育研究科(研究院), 講師 (30625025)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 福島 / 方言 / 震災 / 談話 / 文法 / 語彙 / 民話 |
Outline of Annual Research Achievements |
新規談話の収集については、伊達市保原町の80代話者を対象に、総計で約240分の録音をおこなった。この話者からは、前年度から継続して多くのデータを収集しており、特定話者の使用言語のありかたを分析するために有用なものとなる。本研究は、社会的なバリエーションではなく、文法面の記述を目指しているため、特定話者のデータを豊富に集めることができたことは、今後の展開に資すると考える。震災から時間が経過しているので、震災関連の話よりも普段の生活の話題が多くなったが、そのこと自体、現在の福島の日常をあらわしており、メディアなどのバイアスのかからない、ありのままの福島の姿を映し出していると考える。 また、これも前年度と同様、『言語調査票2000年版』にもとづいて、516語の基礎語彙の収集をおこなった。これまで、「標準語と語形の違う単語」を集めた俚言集は数多く編まれているが、「標準語と語形の似ている単語」をふくめて方言の基礎語彙を網羅的に集める試みは、福島をふくめた日本語諸方言で、ほとんど見られない。これは、一個別言語体系の記述として、必要なことと考える。 談話の整備については、福島市内の業者に委託することで、約280分の録音談話を文字化した。今後、研究代表者の白岩自身によるチェックの必要があるが、地元の業者に委託したこともあり、文字化の精度は高いため、文字化整備の作業と並行しておこなう文法面の分析に使用してゆけるものと考える。 このほか、特定話者以外の多くの話者からも談話を収集したいが、実際には調査に多くの労力がかかるため、既刊の民話資料などで話者の語りをそのまま文字化したものを利用できないか検討した。民話資料は方言記述にあたって有用なデータであるにもかかわらず、これまで十分有効に活用されていない。どのような民話資料が有効活用できるか整理すれば、今後の方言記述に大いに資することになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
科研事業開始以前から収集していたものをふくめ、現在までに約460分の談話を録音している。また、そのうち、業者委託によって約540分は文字化を済ませている。当初から目標にしている7時間(420分)の談話の文字化にむけて、十分に文字化資料の整備が進んでいると判断した。ただし、実際に資料を完成させるためには、研究者の白岩自身による文字化資料のチェックが必要であり、業者委託で文字化した分の中から適切な談話を選び、文字化資料として刊行する作業が残っている。平成28年度はこの作業に注力しつつ、文法面の分析もあわせておこないたい。 なお、当初は、整備できた談話から先に、順次、中間報告書の形で談話資料を刊行し、談話資料の配布で新たに調査協力者を募る予定だったが、すでに相応の量の録音ができているため、中間報告書の刊行は見合わせた。むしろ、文字化の方法や書式などを統一させた形で、最終年度に全ての談話をあわせて刊行するのが適切と判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度はこの科研費事業の最終年度にあたるため、すでに業者委託で文字化済の談話を研究代表者の白岩自身でチェックし、総計7時間(420分)の談話の整備を完成させ、この科研費事業の報告書を兼ねた談話資料として刊行する。これが最大の目的であるから、この作業を最優先に考え、注力して取り組みたい。 また、これと並行して、談話資料をもとにした文法面の分析もおこなう。本事業は、文字化資料という基礎データの作成自体を主眼としているため、それ自体は、研究発表や論文のテーマにはしにくい。しかし、談話資料をもとに分析できる文法事項は無数にあるから、いくつかのテーマに的をしぼって分析をおこない、整備中の談話資料をもとにして文法記述を進めてゆくことはできる。特に、話者の心情を解釈するのに有効な授受表現などの文法項目が分析の視野に入っている。また、逆使役表現(自発表現)についても、白岩が分担者として参画する別の科研費事業「通言語的観点から分析する逆使役化関連形態法の広がり」(代表者:佐々木冠(札幌学院大))と連携しつつ、分析をおこなう予定である。 そのほか、「研究実績の概要」に示したとおり、当初の予定から加えた研究内容として、基礎語彙の収集と民話資料の整理がある。いずれも、従来の方言研究では十分に考えられてこなかった取り組みである。基礎語彙については、特に目標は設定しないが、総計で700~800語程度は無理なく集められるはずなので、収集できたぶんをまとめて整理したい。民話資料については、言語資料としての資料価値があるものを整理して示せば、談話資料に準じたものとして、多くの研究者が利用することができる。実質的には新たな談話資料を得るのに近い効果がある。 上記のように、談話資料を中心としつつ、文法面の分析、基礎語彙、民話資料に関する情報をあわせて報告書を作成し、今後の方言研究に資するようにする。
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Causes of Carryover |
「現在までの達成度」「今後の推進方策」に書いたとおり、中間報告書として刊行する予定の談話資料を、すべて最終年度にまとめて刊行することにしたためである。 当初は、整備の済んだ談話資料をその都度中間報告書として整備して福島県内に配布し、新規の協力者を募る予定であったが、新規の協力者を募らずとも当初の目標である7時間(420分)の談話を整備する目途が立った。そのため、最終年度に、文字化の方法や書式、体裁などを統一し、すべての談話をまとめて刊行する方針に変更した。これに備えて、最終年度の平成28年度に多めに予算を確保することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
大量の談話資料をまとめるため、報告書は3分冊にすることを予定し、1分冊ごとに30万円程度の経費を見込んでいる(音声を入れたCDの付録も予定している)。繰り越した金額をふくめ、平成28年度の予算は、あわせて約115万円になるが、その大部分にあたる90万円程度は報告書としての談話資料の刊行費にあてる予定である。そのほか、物品費・旅費などで20万円程度を使用する。
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Remarks |
研究代表者白岩広行の個人サイトであり、本科研費事業に関する福島方言の記述研究をふくめ、研究教育活動の全般に関わる情報を随時掲載している。 特に、研究に関する情報は、専門分野外の一般の方々にもわかりやすいよう、内容をかみくだいて書くように努力している。
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