2015 Fiscal Year Research-status Report
言語の身体性に注目した英語の前置詞の類義性・反義性・多義性の実証的な研究
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26770171
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
大谷 直輝 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (50549996)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 認知言語学 / 前置詞 / 不変化詞 / 直示的機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、4年計画の2年目として、主にコーパスを用いた実証的な前置詞の分析を進めた。特に、これまで注目度が低い、前置詞とその副詞形である副詞辞が持つ直示的機能や談話的機能に注目して、それらの機能が前置詞の空間的意味からどのように派生するかを中心的な課題に設定して、研究を進めた。具体的には、以下の3点の研究を行った。 第一に、反義語を含む類義的な動詞不変化詞構文(burn up/burn downなど)の振る舞いを、コーパスを用いて調査して、類義的な副詞辞であっても、各副詞辞では指向性が異なる点を明らかにした。この成果は、査読付きのジャーナルである『認知言語学研究』に掲載された。 第二に、文法化が進んだ前置詞の機能の一つである直示的機能の網羅的な調査をコーパスを用いて行った。特に、前置詞が表す空間関係には、その関係を認識する認知主体による把握の仕方が反映している点を明らかにした。またこの成果の一部は、『スーパーアンカー英和辞典』(第5版)に掲載された。本辞典においては空間認知だけでなく、空間と相互作用する身体の観点から前置詞の項目の執筆を行った。 第三に、コーパスを用いた談話的な分析手法を用いて、英語の前置詞を含む構文であるspray/load構文の分析を行い、構文が意味的情報と同時に、談話的な情報も伝えている点を明らかにした。同時に、コーパス調査に、態や項構造などの統語的な情報や意味役割を付与することで、実証的なコーパス研究の手法に関する研究も引き続き行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究がおおむね順調に進展していると考える理由は以下のとおりである。本研究の目的は英語の前置詞に見られる様々な語彙的な関係(多義語・類義語・反義語等)を記述することで、人間による空間の認識の仕方がどのように言語の意味的・統語的特性を動機づけているかを明らかにすることである。 この目的を達成するうえで、前置詞の統語的・意味的構造の記述を進めると同時に、実証的な言語分析の方法論を構築する必要がある。この点に注目すると本年は以下の点において研究が進展したといえる。 第一に、前置詞の意味の記述に関しては、類義性・反義性・多義性の具体的な記述を進めた。特に、over, up, down, onなどの前置詞については詳細な意味記述を行った。同時に、主要な前置詞の項目については辞書の執筆を通して、網羅的な記述を進めた。また、前置詞の意味だけでなく、統語的な分析も進めた。特に、構文文法的な観点による前置詞の意味記述や、前置詞が持つ直示的機能や談話的機能の記述を進めた。 第二に、人間による空間認知が前置詞の意味や文法的な特性に強く影響をしていることを示す実証的な方法論についても考察を進めた。具体的には、定量的な分析手法としてコーパスを用いた談話的・意味的分析の手法を提示した。また、前置詞の意味の基盤となるイメージスキーマの実在性については、何度か打ち合わせを行い、共同研究の素地を作った。 以上のように、研究対象に関する考察と方法論の面で一定の成果が確認されたためおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策に関しては、過去二年間と同様に、まずは、研究対象となる前置詞の体系的な記述を進める。特に、前置詞の意味だけではなく、直示的機能、文法的機能、談話的機能などの機能が持つ特性の記述を進める。同時に、前置詞を含む構文の記述にも注目することで、談話内で用いられる前置詞の文法的振る舞いを動機づける認知的な基盤に関する考察を進める。 次に、方法論については、これまでに行ってきた意味に注目したコーパスの分析方法を発展させ、意味だけでなく談話的な要素を考慮したコーパスの分析方法の構築を目指す。同時に、構築中の手法を用いて、構文の談話的機能を事例として、構文交代を動機づける談話的な要因の考察を行う。また、前置詞に結びついた様々な空間関係や抽象的な関係の心的実在性を明らかにする実証的な手法として、心理実験にも注目する。特に、上下や前後などの空間関係に抽象的な概念が結びついている点を実験等を用いて明らかにする。 最後に、本研究で行ってきた前置詞の意味記述を用いた英和辞典や言語学の入門書の執筆を通じて、研究成果の英語教育や言語学の教育への応用を試みる。
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Research Products
(7 results)