2014 Fiscal Year Research-status Report
日本語教師養成を前提としない大学教養科目としての日本語教育学プログラムの開発
Project/Area Number |
26770185
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鈴木 寿子 早稲田大学, 日本語教育研究センター, 准教授 (00598071)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 対話 / グローバル化 / 日本語教育 / 教師養成 / ポートフォリオ / 言語生態学 / 協働 / 内省 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究目的】本研究は≪大学生のための持続可能性教育としての日本語教育学プログラム≫の開発することを目的としている。本年度は①プログラム検討と②理論研究を行った。 【研究方法】①プログラム検討では、90分15回のシラバスを策定し、早稲田大学学部生対象の日本語教育副専攻科目「グローバル化社会と日本語教育」(55名履修)で実施した。②理論研究では、岡崎眸氏(城西国際大学・教授)の主催する「人間生態学としての言語生態学研究会」と合同で平成26年9月から月例勉強会を実施し、平成26年11月にワークショップ「持続可能性日本語教育とはどのような日本語教育か」(早稲田大学大学院日本語教育研究科主催)を開催したほか、思考の深化の過程を可視化する分析枠組みを検討した。 【研究成果】①プログラム検討では、受講者の日本語学習者に対する認識について分析を開始した。認識の深化を促すものとして「ツール」「他者の介在」の2点が浮上している。「ツール」に関する工夫としては、授業資料や事前課題、ふり返りシートを綴じるポートフォリオの使用によって、受講者が自己の思考の軌跡を確認する機会となったことが挙げられる。「他者の介在」は、ふり返りシートに講師(研究代表者)と授業ボランティア(研究協力者である早稲田大学日本語教育研究センター・助手 山内薫氏)がコメントし、学び手の内省を促したことと、すべての授業においてグループ対話の時間(20~60分程度)を設けたことである。これらの教育的効果の分析は次年度の課題であるが、最終回授業において実施した授業アンケートでは、授業の意義、今後の生活における有益性に関する設問においてそれぞれ3.9、3.8の高評価を得た(最高値は4.0、全学平均はそれぞれ3.4)。②理論研究では、言語生態学に依拠する「生態学的主客構造分析」を用い、授業における受講者の学びを微視的に示す分析に着手している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究目的全体の「施行実践」の年度と位置付けている。プログラムのベースとなる15回のシラバスを策定して実践し、受講者のうち5名にインタビューを行い、その分析を始めたことは、当初の計画のペースと合致しており、この点から、おおむね順調に進展していると結論付けることができる。 なお、当初の計画と異なる展開としては、平成26年11月にワークショップ「持続可能性日本語教育とはどのような日本語教育か」(早稲田大学大学院日本語教育研究科主催)を開催したことが挙げられる。このワークショップの実施は、岡崎眸氏(城西国際大学・教授)の主催する「人間生態学としての言語生態学研究会」の協力を得て毎月1回の月例勉強会が行われ、同研究会メンバーの協力の下に理論研究が進展したことによるところが大きい。本科研における平成27、28年度の中心的課題となっていた理論研究が、前倒しで実施開始できた形である。さらに同研究会では、現在「生態学的主客構造分析」を用いて、授業における学習者と教師の思考の深化のプロセスについての論文を執筆中である。こうしたことから、次年度以降の研究の道筋ができた年度であると評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.本年度実施した実践に対する分析の継続 本年度の主たるフィールドであった早稲田大学学部生対象の日本語教育副専攻科目「グローバル化社会の日本語教育」の受講者5名に対するインタビューを実施済みである。インタビューデータに合わせ、当該学生が授業中に書いたふり返りシートや事前課題などの分析を今後行っていく予定である。 2.次年度の実践に関する方策 次年度は、週1回、90分授業で展開していた早稲田大学学部生対象の日本語教育副専攻科目授業を、週1回、180分授業(90分×2コマ連続)として開講することになった。履修者数は14名である。本授業実践に当たっては、「人間生態学としての言語生態学研究会」のメンバーであるトンプソン美恵子氏(早稲田大学・准教授)の協力を得て、研究代表者である鈴木とトンプソン氏の2名によるチームティーチングとして展開することになった。今年度の実践と比較し、授業時間数が倍増したこと(15コマ→30コマ)、履修者数が小規模化したこと(55名→14名)によって、授業の内容や進め方も修正が必要であることは明白である。今年度の本研究の結果から、【研究実績の概要】欄に挙げた「ツール」「他者の介在」といった授業の工夫が、受講者の内省の深化に影響を与えるという立場に立ち、平成27年2月以降、検討を重ねてきた。一つの科研の中で、授業時間と履修人数の点で幅のあるプログラムが施行できる状況にあるため、今後の研究によって、授業運営の工夫の適用の在り方をまとめ、より汎用性の高いプログラム構築へと昇華させたい。
|
Causes of Carryover |
本科研ではインタビューを行ったが、データ収集時期が学期末(平成26年度2月)であったため、謝金の支払時期の関係で、データの文字起こしの依頼が次年度になった。これが次年度使用額が生じた主たる理由である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
1.データ収集・分析のための経費:音声データや文字化資料を適切に収集・ファイリングし、分析するための機材(ICレコーダ、ハードディスク)や文字起こしにかかわる研究補助者に対する謝金などの使途を予定している。 2.研究発表・勉強会のための旅費:平成27年10月10日、11日に沖縄(沖縄国際大学)にて行われる予定の日本語教育学会秋季大会に、研究協力者とともに参加予定である。そのための研究発表旅費が必要である。また、平成26年度から継続して「人間生態学としての言語生態学及び持続可能性日本語教育研究会」との合同勉強会を実施しており、次年度以降も行う予定である。本勉強会は主として東京(早稲田大学)で開催するため、研究協力者であり上記研究会の主要メンバーである野々口ちとせ氏(大阪大学・非常勤)、半原芳子氏(福井大学・特命助教)の招聘旅費も計上している。
|