2014 Fiscal Year Research-status Report
日本人英語学習者と英語話者の相互行為における知識の共有:その過程と仕組みについて
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26770191
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Research Institution | Showa Women's University |
Principal Investigator |
山本 綾 昭和女子大学, 人間文化学部, 講師 (10376999)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 知識の共有 / 相互行為 / 接触場面 / 談話分析 / 日本人英語学習者 / 英語母語話者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「知識の共有」という観点から日本人英語学習者と英語母語話者の会話における相互行為を観察し、談話分析の手法を用いて分析・考察する。学習者と英語話者それぞれが、自分しか知らないことを相手にも知ってもらおうとする、あるいは相手しか知らないことについて聞き出そうとする場面のやりとりに着目し、共有知識を蓄積する過程とそれを支える仕組みについて探る。平成26年度は、主に次の2点に取り組んだ。 1.日本人英語学習者と英語母語話者の対面二者間会話を資料とし、誤解や不信が生じている場面を抽出し言語行動を分析した。その結果、(1)学習者のある発話をめぐって母語話者が誤った推論をした場合や、(2)学習者と母語話者が持っている百科事典的知識や社会・文化に関する経験的知識(例.地名や名所、名産品)が一致しない場合などに、誤解や相手に対する不信が生じると指摘した。また、双方が競合する知識を提示して自らの正当性を主張したり、否定的評価やジョーク、皮肉で応酬したりすることを示し、知識の正当性をめぐる交渉が両者の間で展開される様相を実証的に明らかにした。 2.上記1と同じ資料に基づき、日本語や日本の文化・社会にまつわる知識が会話における対人関係の構築にどのように関わっているのかについて調査した。その結果、まず、学習者は母語話者の(1)日本滞在歴、(2)日本語運用能力、(3)日本についての評価や愛着、(4)日本での食生活に関する質問をしばしば投げかけていることを指摘した。次に、こうした日本語や日本についての知識の有無や多寡が前景化されると、学習者と母語話者の間で「日本人」対「非日本人(外国人)」というカテゴリー化が強調されたり、あるいは修正されたりすることを明らかにした。 以上の研究成果は、論文や学会にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度は、当初、二つの課題を進める計画を立てていた。一つは、既に収集とデータベース化が済んでいる会話資料の分析と考察であり、もう一つは、追加となる会話資料の収集とデータベース化の推進であった。 一つ目の課題は順調に遂行でき、論文などとして成果をまとめることができた。二つ目の課題については、初中級の日本人英語学習者と英語母語話者による対面会話の収集に遅れが生じた。平成26年度前半中に数十名の調査協力者を募って、条件を統制し会話を録画・録音し、さらに文字起こし作業まで進める計画であったが、時間的な制約によりこの一連の作業に集中的に取り組むことが困難となったためである。対応策として、後期に少数の調査協力者に依頼して、複数回に分けて事例観察とフォローアップ・インタビューを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、26年度に引き続き、1.既に収集済みの会話資料の分析と考察を進めるとともに、2.英語の運用能力の異なる日本人英語学習者を対象として対面会話の資料を追加収集し、資料の拡充を図る。 1については、26年度までに得られた知見を土台として、学習者と母語話者それぞれが知識、特に母語や母語文化・社会などに関する情報をどのように提示するのかという点について調査を進める。これらの知識の共有に成功した事例だけでなく、共有に至らなかった事例も取り上げ比較する。また、母語や母語文化・社会に関する知識とアイデンティティやそのカテゴリー化、権力関係との結びつきについても考察を深めたい。 2については、所属機関の在学生を中心に調査協力者を募り、英語母語話者との対面二者間会話の録画・録音を順次進める。募集の手続きや録音・録画作業を効率的に遂行するために、大学院生などに研究補助を依頼する予定である。また、データベース化を迅速に進めるために、トランスクリプト作成に長けた専門業者への作業の一部委託も検討する。
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Causes of Carryover |
平成26年度は、実際の使用額が当初の申請額を下回った。その理由として、所属機関を異動したため、適用される予算執行ルールが変わり一部の備品が購入できなくなったこと、図書購入費や旅費の一部を所属機関から配分された個人研究費にてまかなったことが挙げられる。また、資料の追加収集に遅れが生じたため、調査協力者への謝金など人件費としてのまとまった支出がなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、平成26年度からの繰り越し分と27年度交付申請額をあわせて、主に図書・備品の購入、研究成果の発信のための学会参加費および旅費、人件費への使用を見込んでいる。特に、言語や知識と権力構造の関係を扱った社会言語学分野の図書を充実させるとともに、会話資料の収集に不可欠な機材、記録媒体等を更新する。人件費については、26年度に予定していた謝金等を本年度の調査協力者分に充てるともに、資料収集の補助者やデータベース化の委託先への支払いなどに使用する予定である。
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Research Products
(3 results)