2015 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半アメリカ海外医療事業とアジア太平洋地域の公衆衛生制度
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26770210
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
牧田 義也 立命館大学, 政策科学部, 助教 (90727778)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | グローバル・ヒストリー / アメリカ史 / アメリカ研究 / 医療史 / 国際赤十字運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、20世紀転換期以降1920年代までのアジア太平洋地域における公衆衛生制度の形成過程に対して、アメリカ合衆国(以下合衆国と略記)の海外医療事業が与えた影響を、アメリカ赤十字社及び同社が主導した国際赤十字連盟の保健事業に焦点を当てて考察する。この目的のために、平成27年度は合衆国及びスイスにて史料調査を実施するとともに、研究成果を論文・国際会議報告等のかたちで発信した。 史料調査については、まずスイス・ジュネーヴの国際赤十字赤新月社連盟文書室にて、20世紀初頭のアジア太平洋地域における赤十字公衆衛生事業に関する非公刊文書類及び稀少本類を収集した。さらに合衆国・ニューヨークの市立文書館・州立文書館にて、アメリカ赤十字社の海外事業の基盤となった合衆国内衛生事業について史料収集を行った。これらの史料調査によって、研究対象時期のアジア太平洋地域におけるアメリカ赤十字社による公衆衛生システムの構築過程を、国際赤十字運動というトランスナショナルな文脈と、合衆国内の保健衛生制度というナショナルな文脈の双方から多角的に理解することが可能になった。 研究成果の発信については、『歴史評論』(792号)に発表した論文「広域圏・国際連関・越境空間」にて、複数国・地域にまたがる人・制度・思想の結びつきを分析する上での鍵概念を考察するとともに、関連諸分野について史学史の整理を行った。また、8月には韓国ソウル国立大学で開催された国際アメリカ研究学会大会(IASA)にて、アジア太平洋地域における衛生思想の伝播について研究報告を行った。さらに、1月には合衆国アトランタで開催されたアメリカ歴史学会(AHA)年次大会にて、赤十字訪問看護事業の人的・思想的基盤について研究報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の調査の主眼は、分析対象期間の中国におけるアメリカ赤十字社の保健事業について史料を収集し、1. 上海に設置されたアメリカ赤十字中国中央委員会が、同市共同租界工部局衛生処や、ロックフェラー財団・YMCA・海外医療伝道団等の民間団体によって集積された衛生事業に関する実践的知識を、同社支部組織を通じて中国国内に拡散させていく過程を検証すること、2. 公衆衛生制度形成過程でのアメリカ赤十字社と中国紅十字会との協働関係を、災害救護事業・保健指導・予防医学普及事業の分析を通じて明らかにすること、3. 中国南部諸都市の保健事業への中国系フィリピン人の関与に焦点を当て、中国の公衆衛生制度の形成過程を、アジア太平洋地域内部の地方間連関性の視点から考察することであった。これらの調査・分析は、概ね順調に達成することができた。ただし、上述の調査・分析の結果、本研究に関連して解明すべき以下三点の新たな課題が発見された。(a)中国における赤十字運動の展開と、紅卍会等の民間慈善・宗教団体との関係、(b)中国紅十字会の組織形成に対する日本赤十字社の影響、(c)中国紅十字会内部、特に北京・上海両グループ間の政治思想的な分断。今後これら三つの課題について調査を進め、平成27年度の研究調査を補完していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下三点にまとめられる。第一に、平成28年度は、前年度の研究調査が明らかにした諸課題を解決することによって、これまでに得られた知見を今後の更なる史料の収集・分析と有機的に関連づけ、20世紀前半の国際赤十字運動の展開を、人道主義運動と公衆衛生事業のグローバルな広がり、及びそのアジア太平洋地域における実施実態という二つの側面から考察することが課題となる。第二に、このような史料の大規模な収集活動を効果的に実施し、また収集済み史料の整理・分析の迅速化・効率化を図るために、史料情報のデータベース化を逐次進行させていく。第三に、平成28年度は、これまでの研究成果を総合して統一された実証研究としてまとめ、その成果をいくつかの主要国際学会・会議にて発表する。こうした国際的発信を積極的に行うことによって、本研究と関連する人道主義・国際保健衛生事業をめぐる歴史研究について、国際的に共有可能な新たな研究プラットフォームを、アジア太平洋史の視点から構築することを目指す。
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Research Products
(3 results)