2016 Fiscal Year Annual Research Report
Explication of the Historical Characteristics of Travel in early modern Japan
Project/Area Number |
26770213
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高橋 陽一 東北大学, 東北アジア研究センター, 助教 (40568466)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 旅 / 近世 / 道中日記 / 紀行文 / 自然景観 / 史跡 / 信仰 / 観光 |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究の目的は、日本近世における旅行者の記録(道中日記・紀行文)の分析から、当該期の旅の歴史的特質を解明することであった。前近代の旅に関しては、これまで寺社参詣を対象に研究が重ねられてきたが、当研究では自然景観や史跡を巡る旅をも対象とし、旅行者の意識面の分析を基軸にその特質にアプローチすることを目指した。 2016年度は交付最終年度に当たるため、史料調査よりもその分析と成果の公表に重点を置いた。具体的には、まず近世(江戸時代)の奥羽(東北地方)から上方(畿内)への旅の道中日記を分析し、同じ地点を2度通らない、京都では禁裏に高い割合で訪問する、といったルートや行動の特性を見出し、旅の性質が信仰にあるという解釈を導き出した。また、道中日記と紀行文を素材に、近世から代表的な景勝地として著名であった陸奥国松島での旅行者の行動分析も行った。その結果、知識人は古代・中世から歌枕・霊地として知られた雄島を訪問する「追憶の旅」を行うが、庶民は雄島を訪問せず自然景観や瑞巌寺といった代表的名所を堪能するのみであり、双方の間に性格的な相違がみられることが明らかになった。こうした検証結果から、近世の旅の特質はその性質的な多様性にあるという結論が得られた。これらの内容を盛り込んだ成果として、単著『近世旅行史の研究―信仰・観光の旅と旅先地域・温泉―』(清文堂出版、2016年8月)を出版することができた。 一方、松島と並ぶ景勝地で松尾芭蕉も訪れた出羽国象潟に関しても、旅行者の行動を念頭に置きつつ、潟で生業を営む住民側の視点に立って、その歴史的展開を明らかにした。壮麗な景観を誇る景勝地も、周辺住民にとっては水産資源採取や農業の対象地に過ぎず、生存のための潟の開田が企図され、領主もそれを承認していくのである。本内容についても、「景勝地と生業―出羽国象潟の開田をめぐって―」と題した論文を発表した。
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