2014 Fiscal Year Research-status Report
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26770299
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
松田 睦彦 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (40554415)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 近世絵図 / 近世文書 / 翻刻 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度はまず、8月に静岡県沼津市内浦重寺および同市西浦久料・足保で検出された近世の安山岩採掘遺跡の調査を行なった。これは、民俗学的手法によって確認することができる近現代の石材採掘技術の歴史的な位置づけを確認する作業である。 この調査の際、徳川林政史研究所所蔵の尾張家の石丁場に関する史料である「駿州 豆州 相州 御石場絵図」を参照しながら現地比定の作業を行なった。その結果、当該絵図およびその付属文書が近世における御用丁場の管理方法や丁場の具体的範囲、石材の規格、採掘技術、さらにこうした石材採掘にかかわる伝承等を明らかにする上で非常に重要な資料であることが明らかとなった。しかしながら、これまでその活用は断片的であった。その原因としては原資料が徳川林政史研究所に所蔵されており、全編にわたる翻刻作業が行なわれていないことがあげられる。そこで研究代表者は、全編にわたる翻刻作業を行ない、報告書として刊行することが急がれるという認識にいたった。 こうした経緯から、昨年10月には駿河・伊豆・相模の石丁場遺跡に詳しい現地の文化財担当者および文献史学の研究者の協力を得て、徳川林政史研究所において当該史料の原本の実見調査を行なった。さらに、近世史の研究者に依頼して絵図および付属文書の大まかな翻刻作業を昨年度内に終了した。また3月には、今後、翻刻内容の確認を行ない、報告書として刊行するための作業工程について、現地の文化財担当者と打ち合わせを行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間の3年間を通した本研究の目的は、1.安山岩の採掘・加工技術の解明、2.石材採掘・加工職人の文化の解明、3.映像記録の作成、4、科学的分析への発展の可能性の模索、の4点である。 このうち、1年目にあたる昨年度の研究計画は神奈川県真鶴町を主なフィールドとして、①安山岩採掘職人からの聞き取り調査および採掘現場での作業の観察を通して、採掘作業の全体的な工程を把握する、②安山岩採掘職人の労働組織や技術伝承のあり方、信仰、日常生活など、技術以外の文化的側面について、聞き取り調査から明らかにする、という2点を柱としていた。また、こうした作業と並行して、③他地域でも積極的な調査を行なうことで安山岩採掘技術の地域差について検討し、安山岩以外の岩石の採掘技術についても比較の素材として情報収集を行なう、④石材の採掘や使用に関連する遺跡について積極的に調査・見学を行ない、民俗学的手法によって確認することのできる近現代の採掘技術の歴史的な位置づけを明確化することも目標としていた。 ただし、昨年度の研究を進める過程で、上述した近世の絵図および付属文書の翻刻と内容の解読といった作業が、当時の技術を示す採掘遺跡を把握する上でも、また、安山岩産出地域における近代への採掘にともなう文化の伝承過程を解明する上でも不可欠であることが判明した。そこで、昨年度は①②にかえて、上記作業を優先して行なうこととした。 したがって、交付申請書に記載した「研究の目的」に対する達成度としてはかならずしも順調に進展しているとは言い難いが、関連文書の整理は当初より2年目以降に予定していたため、結果的に前倒しをして研究を行なうこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策としては、まず、昨年度翻刻を行なった「駿州 豆州 相州 御石場絵図」および付属文書について、翻刻の精度の確認および絵図に描かれた現地の比定を行ない、来年度を目標に報告書を刊行したい。報告書の刊行については当初の予定にはなかったが、他の研究者の強い要望もあり、計画に若干の変更を加えて実現したい。 つぎに、昨年度十分な作業を行なうことができなかった「安山岩の採掘・加工技術」や「石材採掘・加工職人の文化」の聞き取り調査による解明については、重点的に行なう。その際、映像記録をとる作業も同時に行なう。こうした作業は神奈川県真鶴市で行なうことを予定している。 なお、他の安山岩産出地や安山岩以外の岩石の産出地での調査も積極的に行ない、安山岩採掘技術の特徴や地域差の把握に努める。さらに、石材採掘関連遺跡の調査も継続的に行ない、近現代の安山岩採掘技術の歴史的位置づけについても明らかにする。
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Causes of Carryover |
昨年度の研究計画では佐賀県や愛媛県といった遠隔地での調査を想定して予算を計上していた。しかし、遺跡の出土状況により調査地が静岡県に変更された。また、上記のとおり、現地調査を中心とした計画が、近世の絵図及び付属文書の翻刻作業へと変更された。以上の理由から主に旅費について次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については、安山岩採掘地域で行なう現地調査およびそのための事前打ち合わせ等の旅費として使用する予定である。
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Research Products
(1 results)