2014 Fiscal Year Research-status Report
オーストラリア多文化主義下の先住民とスーダン難民の緊張関係をめぐる人類学的研究
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26770300
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Research Institution | Akashi National College of Technology |
Principal Investigator |
栗田 梨津子 明石工業高等専門学校, その他部局等, 特命助教 (10632672)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | オーストラリア / 多文化主義 / 先住民 / スーダン難民 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、1990年代以降のオーストラリア多文化主義政策における先住民とスーダン難民の位置付け、および主流社会における両集団の受け止められ方を明らかにすることを目的に、日本とオーストラリアで主に文献研究を行った。まず、オーストラリアのスーダン難民に関する文献を収集し、その歴史的背景、社会経済的状況、教育や差別などの問題に関する情報の整理を行った。同時に、オーストラリアの難民政策や難民に対する社会福祉サービスの実態を調査し、既に研究の蓄積がある先住民の状況と比較した。 また、主流社会が両集団に対して抱くイメージに関しては、南オーストラリア州立図書館にて情報収集を行った。スーダン難民の受け入れが本格化した2000年以降の全国紙および地方紙における両集団に関する記事や読者投稿欄を参照する中で、スーダン難民と先住民の若者が頻繁に組織化した犯罪集団と結び付けられ、社会の逸脱者として描写される傾向があることがわかった。さらに、アデレード郊外での予備的な現地調査では、難民支援組織や先住民組織の職員、および両集団との関わりのある白人住民に対して聞き取り調査を実施し、人々の両集団との経験とマスメディアによる両集団の描写の隔たりが明らかになった。 今年度の研究の意義は、1、研究の蓄積が少ないオーストラリアのスーダン難民が置かれた社会経済的状況を確認したこと、2、両集団の社会経済的状況を比較することで多文化主義政策における両集団間の位置付けを明確にしたこと、3、両集団に対する主流社会の眼差しの比較・分析を通して、多文化主義をめぐる政策や言説と一般市民による多文化主義の受け止め方の違いを浮き彫りにしたこと、である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オーストラリアにおける先住民とスーダン難民の歴史的背景や現在の社会経済的状況、主流社会の両集団に対する眼差しに関する文献調査は予定通り進んだ。一方で、現地調査では、難民支援組織や警察がプライバシーや人権保護などの観点から、聞き取り調査に対して極めて慎重な態度を示し、両集団の対立に関し十分な情報を得ることができなかった。ただし、こうした情報の不足は、地元紙による情報収集等により十分に補足可能であるため、本研究の遂行にあたって大きな支障はないと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に得られた結果を基にして、次年度はアデレード郊外の貧困地区での現地調査を通して、同地域における両集団のコミュニティの現状、両集団間の社会的相互作用の諸相、地域社会における白人住民との関係を明らかにし、両集団間の緊張関係をもたらす社会経済的要因について考察する予定である。最終年度には、両集団へのライフストーリーの聞き取り調査を行い、主流社会における白人との経験を通した人種的アイデンティティの形成の背景、および人種的アイデンティティがもう一方の集団に対する態度に与える影響について分析し、反多文化主義の動きや白人に関する議論と接合する。 なお、今年度に実施した現地調査の結果を踏まえ、今後の研究計画に関して以下3点の軽微な変更を加えたい。第一に、一部の先住民の間ではアフリカの様々な地域出身の難民が一括してスーダン難民として認識される傾向があることがわかった。そのため、今後はスーダン以外のアフリカ系難民と先住民の関係に関するデータも補足的に収集する予定である。第二に、両集団の若者の間には緊張関係が見られる一方で、学校生活や地域生活などを通して友好関係が生まれるというケースも散見された。したがって今後の研究では、両集団を隔てる社会的要因に加え、両集団を結びつける諸要因にも着目することで、両集団を取り巻く社会文化的状況の共通点と相違点を多文化主義との関わりにおいて多角的に分析する予定である。第三に、両集団の対立に関するデータの不足は、今後地元紙による情報収集や地元住民からの聞き取り調査を通して補うつもりである。
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Causes of Carryover |
オーストラリアにおける資料・文献収集時の複写費を予算に計上していたが、USBメモリによる資料の保存が可能となり、同費用が不要となったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度に実施予定の現地調査において通信費として使用する予定である。
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