2015 Fiscal Year Research-status Report
オーストラリア多文化主義下の先住民とスーダン難民の緊張関係をめぐる人類学的研究
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26770300
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Research Institution | Akashi National College of Technology |
Principal Investigator |
栗田 梨津子 明石工業高等専門学校, その他部局等, 特命助教 (10632672)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | オーストラリア / 多文化主義 / 先住民 / 難民 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、1990年代以降の先住民とスーダン難民の社会経済的状況に加え、両集団に対する社会福祉サービスの内実、および両集団間の社会的相互作用の実態の把握を目的に、日本での文献研究およびアデレード北西部郊外での現地調査を実施した。文献研究では、政府統計を基に、両集団の雇用状況、住宅事情、社会福祉サービスの利用状況を中心に調査し、比較・分析を行った。 現地調査では、先住民およびアフリカ系難民の人口比率が高い地区のコミュニティセンターおよび両集団への支援を提供する教会を訪問し、関係者に対し支援内容に関する聞き取り調査を行った。また、これらの組織のサービスを利用する両集団のメンバーの相互作用の様子を参与観察するとともに、日常生活における集団間および白人住民との社会関係に関する補足的な聞き取りを行った。 今年度の研究の意義は、1.難民の場合とは異なり、先住民に対しては独自の社会福祉支援制度が確立されているなど、両集団に対する社会福祉サービス内容の相違を確認したこと、2.両集団の社会福祉サービスに対する態度の違いが、両集団への主流社会からの評価、ひいては多文化社会における両集団の位置付けに影響を及ぼしている点を明らかにしたこと、である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は当初、合計約3ヵ月間の現地調査を予定していたが、所属機関から長期にわたる海外渡航の許可を得られず、調査期間が2週間に短縮されたためである。短期間に本研究の遂行に必要な最小限のデータは収集できたが、理論構築にはさらなるデータの拡充が必要であり、今年度の遅れは来年度の現地調査で取り戻す予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である次年度は、これまでに得られた研究成果を基に、先住民およびアフリカ系難民の間に緊張関係および場合によっては友好関係が生まれる諸要因について、主に社会経済的状況、白人との経験、「ブラック」としてのアイデンティティという観点から考察し、多文化主義に内在する問題との関連について考察する。特に、補足的な現地調査を通して、日常レベルでの両集団間の社会関係に関するデータの拡充を図るとともに、両集団のライフヒストリーの聞き取り調査を通して、白人主流社会から付与された「ブラック」というカテゴリーに対する両集団の意味づけやそれがもう一方の集団に対する態度に与える影響について分析する。さらに、両集団間の社会関係への着目を通して、多文化主義の下で維持され強化される白人性による権力支配構造を逆照射し、反多文化主義の時代における人種的差異による包摂と排除のメカニズムに関する理論を構築する。なお、研究成果はオーストラリアの関連学会および国内の関連学会で発表する予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は当初、合計約3ヵ月にわたる海外調査のための予算を計上していたが、所属機関から長期の海外調査の許可が得られず、調査期間を2週間に短縮したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に予定していた現地調査の期間を合計1ヶ月から2ヶ月に延長し、旅費として使用する予定である。
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