2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26780007
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田中 啓之 北海道大学, 大学院公共政策学連携研究部, 准教授 (60580397)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 租税法 / 企業課税 / 共同事業者課税 / 組織体 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、共同事業者課税という体系における中心的な法的問題である、私法上の法形態と所得課税の関係について、今後の議論の基礎をなすであろう二つの最高裁判決が現れた。このうち、最判平成27年7月17日民集69巻5号1253頁は、日本の所得課税における外国の組織体の取扱いについて一般的な判断枠組みを示したものであり、ここ十数年来の議論に一応の決着をつけた一方で、外国の組織体の権利能力の有無を一義的な判断基準としたことで、本研究に係る日本での議論の不足を傍証することとなった。また、最判平成27年6月12日民集69巻4号1121頁は、匿名組合契約に係る利益分配の所得区分について、匿名組合員の法的地位を基準として、営業者と同じ事業所得または(原則として)雑所得に区分するという判断枠組みを示したものであり、特に共同事業者課税という範疇の成立可能性とその条件についても、重要な示唆を与えるものとなった。 報告者は、幸いにして、まず前者の判決について、最高裁の判断の基礎をなしたであろう比較法研究を平成26年度中に公表していたという理由で、租税判例百選の解説を担当することとなり(平成28年度公刊予定)、また後者の判決についても、法務省における租税判例研究会での報告を経て、判例評釈を公表する機会に恵まれた(ジュリスト1493号102頁)。このように、平成27年度は、本研究に係る判例法理の形成とその理解については、一定の貢献をなし得たと評価してよいと思われる。 他方、判例研究以外のものとして、当初の予定では、租税求償権についての研究を進めることとしていたが、後述の理由により、その進捗状況はやや遅れたものとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度は、他の受託研究が重なったこと、および在外研究の時期を前倒ししたことにより、本研究それ自体の進捗はやや遅れてしまっている。 具体的には、まず、7月11日、基盤研究(A)「法的本質論を踏まえた非営利団体の地位と役割及び団体訴訟に関する比較法的総合研究」の研究分担者として、中央大学市ヶ谷キャンパスで「租税法における公益の意義と課題」と題する報告を行い、ドイツ環境法上の団体訴訟における適格要件のひとつである租税法上の公益性の意義とその課題について、本格的な比較法研究の成果を共有した。また、12月4日、日本税務研究センター「租税手続の整備」研究会の共同研究員として、同会館で「ドイツにおける租税確定手続」と題する報告を行い、ドイツ租税通則法155条ないし192条に係る規範構造の概要のほか、租税の成立および給与所得に係る源泉徴収税について、本格的な比較法研究の中間的な成果を示した。これらは、いずれも、日本における比較法研究の蓄積が不十分な分野におけるものであり、その準備には相当の時間を費やすこととなった。なお、これらの成果は、平成28年度以降に公表される予定である。 他方、これと前後して、8月以降は、ドイツ学術交流協会奨学金への応募をはじめとして、在外研究の準備にも忙殺され、結果として、本研究それ自体の成果として形にできたものは、若干の判例研究のみにとどまることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、当初の希望どおり、ボン大学租税法研究所の客員研究員として、ドイツに滞在する。本研究所は、創設以来、一般法秩序における租税法のあり方を考究するという伝統を有しており、本研究の主題である共同事業者課税については、ドイツ国内で指導的な研究機関とみなされている。報告者はすでに、本研究所の出身者として、共同事業者課税において私法秩序と租税法秩序の調整原理として機能する租税求償権の研究でアルバート・ヘンゼル賞を受賞したアンドレ・マイヤー教授と知己を得ているほか、マックス・プランク租税財政法研究所の初代所長にして商法雑誌の編集者でもあるヴォルフガンク・ショーン教授とも面会を得る予定であるなど、受入教官ライナー・ヒュッテマン教授をはじめとした本分野における第一線の研究者と直接に交流できる環境にある。そこで、平成28年度は、この環境を最大限に活用して、日本での研究における資料の不足を補うほか、ドイツの研究者とも率直な意見交換を行うことで、当初の予定どおり、本研究の完成を目指したい。
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Causes of Carryover |
平成28年3月に図書の発注をしたが、これにかかる支出につき会計処理の都合上、3月中に予算執行が間に合わなかったため、平成27年度研究費に余剰が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
年度内に支払われなかった図書の購入にかかる経費に、平成28年4月にこの分を充当して、直ちに予算を執行する。
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