2016 Fiscal Year Research-status Report
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26780011
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
内野 広大 三重大学, 人文学部, 准教授 (90612292)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 習律 / 政治的憲法 / 憲法と習律の関係モデル / 法の支配 / カナダ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、Griffith政治的憲法論(以下「政治的憲法論」と略称する)と対話する準備作業として、その対抗言説にあたる法的憲法論を考察するとともに、多元論が応答すべき課題を特定するために、カナダ法における習律論を分析した。 前者については、現代において法的憲法論を代表するT. R. S. Allanの習律論に焦点を合わせた。Allanによれば、立憲的原理の次元においては、憲法と習律との区分は存在せず、裁判所は習律を強行しうる。立憲的原理は、裁判の場では法原理として、他方政治の場では政治的原理として現れるが、法原理と政治的原理は相互不可分の関係にある。そして習律は、政治的原理の帰結するところを表現するものである。このように法原理と政治的原理は相互依存関係にあることから、憲法と習律との区分は存在しない。また、多元論は、Austinian法理学をその理論的基底に据えるものであり、「強行」と「認知」を区別して自己の主張を根拠づけてきたが、特定の習律が立憲的原理の淵源として用いられていること等からすると、この区別は妥当な区別とはいえない。 後者については、特に一元論を説くAndrew Heardの習律論を分析し、多元論が応答すべき課題を特定した。まず、成文憲法典の存在や勧告的意見制度を含む違憲審査制度の存在、大陸法の影響をも受けた独自の法文化等、カナダ法を比較対象国とすることが適切である理由を考察した。次に、憲法と習律の関係モデルについて考察した。Heardは、習律の強行を肯定するとみられる先例が存在していること等を根拠として、憲法と習律の間に区別はなく、裁判所は習律を強行しうるとする。もっとも、こうして一元論が正しいといえたとしても、裁判所はいかなる習律であっても強行できるのかという問題に逢着せざるをえない。そこでHeardは、複数の考慮要素を示し習律を階層化・多段階化する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度においては、まず、上記Allanの習律論の検討により、Dworkin法理論の国制の領域における具体化、特に国制に関わる法源論における具体化の態様を解明できた。Allanの習律論によれば、習律は、「法原理」の内容にとって重要な役割を果たし、事案によっては法ルールに抵触するにもかかわらず「法原理」の問題としては法ルールに優越しうる。これは、原理とルールの区別を踏襲した上で、裁判所が習律を「強行」するとは、裁判所は、少なくとも、習律を法的推論における重要な考慮要素となしうることをいうとするものといえる。このようにして法的憲法論の一端を解明しえた。 次に、上記Allanの習律論及びHeardの習律論の検討により、多元論が当面すべき課題を特定する端緒を得ることができた。Allanによれば、第一に貴族院等の判例において、特定の習律が立憲的原理の淵源として扱われているから、多元論の依拠する「強行」と「認知」の区別論は妥当ではない。第二に制定法解釈における習律の援用がもつ意義を考慮するならば、習律が立憲的原理の淵源として扱われているといえ、この点においても多元論は十分な応答をするものではない。他方Heardによれば、第一に習律の強行を肯定する先例が存在している。第二に州の同意を要求する習律が問題になった1981年のカナダ連邦最高裁判所判決を検討すれば「強行」概念を拡張的に捉えることができる。 本研究は主に以上の二点により、我が国における習律の基礎づけという研究目的の達成にさらに一歩近づいたものといえる。 しかし、Allan理論については法の支配原理の理念的側面及び制度的側面に関する考察が不十分に終わり、また、カナダ法については多元論の根拠の解明に至らず、諸般の事情により論考にまとめることができなかった。そのため研究の進み具合はやや遅れていると評価せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度においては、前年度までの研究蓄積を踏まえ、次のように研究を進めていく。 まず、法的憲法論の姿をより大きな視点から眺めることにより「政治的憲法論」との対話を進める土台を形成する。そのために引き続きAllanの習律論及び法理論を検討していくが、その際には、その特徴を浮き彫りにするべくJ. Goldsworthyの習律論及び法理論との対比を試みたい。具体的には、第一にAllanの説く「法の支配」と「憲法と習律の関係モデル」との関係を解明していく。第二に憲法と政治道徳との関係を考察する。第三に立憲的原理が一般的拘束力をもつ理由を追究する。第四に実践的思考を重視するAllanの理論とDworkinの法理論との関係を考察する。第五にAllanの説く制定法解釈方法論の内実を近時の人権法解釈方法論の議論との比較により解明する。 次に、一元論と多元論それぞれの立場の根拠を整理していきたい。具体的には第一にそのための前提作業としてカナダにおける個々の習律の規範内容を整理するとともに、各々が前提とする二つの重要判例(上記の1981年のカナダ連邦最高裁判所判決及びイギリス高等法院によるJonathan Cape事件判決)の内容やそれらに関する英加の法学者各々の見方を整理する。第二にGoldsworthyの習律論及びカナダ法における多元論が提示する根拠を調べ整理する。特にカナダ法については憲法典がいかなるものとして捉えられているかに着眼する。第三に習律がいかなる要件を充足すれば裁判所が強行可能なものとなるのかについてHeardの主張を検討する。Heardによる習律の多段階化が望ましい帰結を生じるものか否か、他説を見つつ考察することにより、一元論の採否を検討する一助としたい。 さらに、日本法とイギリス法との対話を可能ならしめる接点を探るべく、日本法における立憲主義論に関する検討を深めたい。
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Causes of Carryover |
平成28年度は諸般の事情により大幅に体調を崩し、研究計画の見直しを迫られることになり、研究に必要な物品を調達することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、基本的には海外文献の購入を優先する。体調の回復具合次第であるが、場合によっては海外調査の費用としても使用する予定である。
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