2017 Fiscal Year Research-status Report
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26780011
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
内野 広大 三重大学, 人文学部, 准教授 (90612292)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 習律 / 政治的憲法 / 憲法と習律の関係モデル / 法の支配 / カナダの習律論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、「法の支配」という原理が、憲法と習律の関係モデルといかなる関係に立つかを考察するとともに、政治的憲法論の対立説にあたる法的憲法論の主張構造を分析するための準備作業を行った。 前者については、イギリス法実証主義に与するJ. Goldsworthyの憲法理論の特徴を、R. Dworkinの法理論に与するT. R. S. Allanの憲法理論と対比することにより、浮き彫りにした。これにより第一に、憲法と政治道徳とを峻別するべき理由を一部解明し、多元論の基盤を明るみにした。そこにいう理由とは、法システムは政治道徳の原理にのみ依拠するものではないから両者を峻別すべきであるという理由、政治道徳を法原理として性格づけるならば法が整合性を失いかねず、また政治道徳はイギリスの法概念から排除されるという理由、さらには両者を峻別せず法的妥当性を道徳的尺度に依存させることには弊害があるとの理由である。第二に、法の支配を実質的なものと観念するか否かにより、採用されるべき憲法と習律の関係モデルに差異が生じうるのではないかという見通しも立てることができた。 後者については、法的憲法論者として位置づけうるAllanの主張構造を分析する準備作業として、旧来の制定法解釈方法論や人権法下における制定法解釈方法論の内実を明らかにした。Allanは一元論を採るべき理由として制定法解釈において習律が果たす機能を挙げており、憲法と習律の関係モデルを選択するにあたっては、政治道徳が制定法解釈過程においてどのように組み込まれているのかを検討する必要がある。そこで、Allanの主張構造を分析する準備作業として、他見解において政治道徳が制定法解釈過程にいかに組み込まれているかを考察した。伝統的な制定法解釈方法論において議会意思が占める位置や用法、また、制定法解釈の過程における価値判断の介在態様を理解できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前述のようにしてGoldsworthyの憲法理論がもつ特徴を浮き彫りにすることにより、Diceyが前提とする法実証主義的な憲法理論の性格を明らかにし、多元論がそうした憲法理論を前提とするものであることを示唆できた。この点に関しては、特に比較法学会において報告する機会を得るとともに、論稿を公表することもでき、比較的研究が進んでいるものと評価しうる。また、すでに述べたように、R. Crossの手になる『制定法解釈』を手がかりとして伝統的な制定法解釈方法論の全体構造を把握するとともに、法実証主義に関する文献を多く引用する論者の文献を手がかりとして制定法解釈過程において価値判断がどのように介在するのかを考察できた。そのためAllanの主張構造を分析する準備は着実に整いつつあり、研究は一歩前進したものといいうる。 しかしながら、カナダの判例や諸学説を整理する作業については一切手付かずの状態である。カナダにおける個々の習律の規範内容を十分に調査するには至らず、一元論と多元論が前提とする二つの重要判例(1981年のカナダ連邦最高裁判所判決及びイギリス高等法院によるJonathan Cape事件判決)の内容やそれらに関するイギリス及びカナダの法学者それぞれの見方を整理することはできていない。また、特にカナダ法において憲法典がいかなるものとして捉えられているかを考察することもできていない。さらには、習律がいかなる要件を充足すれば裁判所が強行可能なものとなるのかについてA. Heardの主張を検討することもできていない。 イギリス多元論に関する考察は徐々に進展しつつあるとはいえるものの、カナダにおける個々の習律規範の整理や分析は不十分であり、また、カナダにおける一元論と多元論の性格や根拠を分析するには至っていない。したがって、研究はやや遅れていると評価せざるをえない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、前年度までの研究を踏まえ、以下のように進めていく予定である。 第一に、カナダ憲法における一元論と多元論間の論争を整理し、各々の根拠を分析し評価を行う。まず、1981年のカナダ連邦最高裁判所判決を検討する予備作業として、イギリスの諸学説がその判決をイギリスにおける従来の習律論といかに結び付けて捉えているのかを整理する。次に、その判決の多数意見と反対意見との理論構成の違いをイギリスの習律論を勘案しつつ分析していく。さらに、カナダの諸学説がその判決をいかに読み解き、何を根拠としているのかを特定し、評価する。この段階では特に、憲法典の存在が諸学説の理論構成にいかなる影響を及ぼしているのかを考究することとしたい。これに加えて、一元論者として位置づけることのできるHeardの説く習律の多段階化が望ましい帰結を生じるのか否かを考察し、一元論の採否を検討する一助としたい。 第二に、憲法上の推定の分析をさらに進め、法的憲法論のさらなる解明につなげる。まず、伝統的な制定法解釈理論が説く推定と目的論的解釈との関係を分析し、推定の性質や制定法解釈における位置づけを考察する。次に、人権法下の推定とはいかなるものかを検討した上で、憲法上の推定の一種である「適法性の原則」のもつ特徴をそれと比較することにより明らかにしていく。ここでは特に、適法性の原則を採用したとされる諸判例を丁寧に読み解いていくこととしたい。さらに、法実証主義に与するGoldsworthyが推定につきいかなる態度をとるかを議会主権論と関連付けて検討する。 第三に、J. A. G. Griffithの政治的憲法論を精確に分析し評価するため、その基底にある思想や鍵となる諸概念につき知識を蓄える。Griffithが政治的憲法論を執筆した当時の思想に関する文献を手がかりとして、鍵となる諸概念の内容や概念間の関係を整理していく。
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Causes of Carryover |
平成29年度は、28年度に大幅に崩していた体調を回復させるのに時間を要し、研究計画の根本的な見直しを迫られることとなり、研究に必要な物品を調達することができなかった。 平成30年度は、基本的には海外文献の購入を優先するが、場合によっては海外調査の費用としても使用する予定である。
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Research Products
(3 results)