2014 Fiscal Year Research-status Report
表現権保障の観点から考究するヘイトスピーチに対する民事救済の可能性
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26780015
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
梶原 健佑 九州大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (40510227)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ヘイトスピーチ |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度はヘイトスピーチ法制を具体的に検討するための基盤となる研究を主に行った。それらはおおむね次の3点にまとめられ、いずれの研究成果についても2015年度中に公表の予定である。第一はヘイトスピーチなる概念の再検討である。同概念を内包(定義の構成要素)および外延(具体例)の角度から分析し、さらに従来の法的枠組に照らした分類を試みた。アメリカ法との比較検討の結果、ヘイトスピーチなる概念はその定義において非常に広汎な言論を包摂すること、各国特有のヘイトスピーチも観念できること、さらに「定義上のヘイトスピーチ」と「規制対象たるヘイトスピーチ」を分けて考えるべきこと等を確認した。 第二はヘイトスピーチがもたらす「害悪」の原理的把握についての検討である。種々に説かれるヘイトスピーチの「害悪」は危害原理に言うharmとして理解できるものとそうでないものとが混在する。他面で、英米法圏には刑事規制の根拠として危害原理とは別に不快原理なるものを観念する議論があり、ヘイトスピーチによる精神的なダメージについてはむしろこちらのプローチが的確とも考え得る。そこで不快原理とヘイトスピーチの関係について、不快原理を唱える論者らの議論を整理する論文を執筆した。 第三は、第二とも絡んで表現規制の根拠として何が正当化されるかについての(派生的な)検討である。とりわけ、個々人に還元できない「公益」による表現規制がどこまで、そしてどのように憲法上可能であるかにつき、国家機密を素材に若干の検討を行った。 この他、九州・山口のヘイトスピーチ法制の研究者4人に呼びかけて勉強会を立ち上げ、2014年9月に1回目を開催した。今後も活動を続ける予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の計画とは少々異なっているものの、本研究の基盤となる基礎的な概念および法理について整理し、検討することができたことは今後の研究の進展のために大変有意義であった。本来先行するはずであったIIED、名誉侵害、プライバシー侵害、ホロコースト否定等の個別分野の検討に関しても、成果をまとめるまでには至っていないものの少しずつ進めてきており、全体としてみればおおむね順調に推移していると評価できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度は2014年度の成果の公表作業と同時に、個別分野別に違法性の認定ないし阻却に係る諸要件の検討を進めたい。とくに、ヘイトスピーチによる被害のなかでも主観的な「感情」侵害の側面について、2014年度に行った不快原理の検討とも関連付けながら、どのように客観的な法制度の言語に翻訳していくのかという点を主として検討する予定でいる。アメリカにおけるプライバシー侵害法制の不快性要件を足掛かりに、IIED法制にも目を向けて、リステイトメントや判例を素材とした作業を進める。昨年立ち上げた勉強会の場を活かしながら研究を推進していく考えである。
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Causes of Carryover |
必要な物品・旅費等のために助成金のほとんどを使用し、1,500円余を残した。書籍等の購入に充てるには不十分なため、次年度使用額として繰り越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度の助成と合わせ、書籍等の購入に充てたい。
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