2016 Fiscal Year Research-status Report
海上安全保障の国際法:海洋における人間の安全保障の実現に向けて
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26780027
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
小島 千枝 武蔵野大学, 法学部, 准教授 (90711200)
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Project Period (FY) |
2015-03-01 – 2018-03-31
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Keywords | 海上安全保障 / 人間の安全保障 / 国際法 / 海洋法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究実績は以下の四つに集約できる。一つ目の実績は、海上安全保障における現代的課題の一例として、気候変動によってもたらされる海面上昇、海洋酸性化、海水温上昇等が海洋生物資源の減少を導びいている点に注目し、このことが食料安全保障(food security)や適切な食料への権利(right to adequate food)という概念と如何に関連づけられるかについて考察したことである。本年度は、食料安全保障や適切な食料への権利を保障するために、国連海洋法条約をどのように解釈・適用し、その紛争解決手続きを利用できるかについて、気候変動を例にとって調査・研究し論文にまとめた。二つ目の実績は、地球温暖化によって生じる北極海の雪解けが北極圏の国家のみならず非北極圏の国家の海上安全保障問題とどのように結びつけられるかという問題について、日本の北極海政策を例にとって検討し論文にまとめたことである。三つ目の実績は、海上安全保障の国際法の履行における国家主体と非国家主体の連携についての概論を、「海洋法の民営化」と題して第12回ヨーロッパ国際法学会リガ大会にて報告したことである。四つ目の実績は、オーストラリアのウーロンゴン大学オーストラリア国立海洋資源・安全保障センターとニュー・サウス・ウェールズ大学アンドリュー&レナータ・カルドー国際難民法センターを訪れ、ボート・ピープルに関するオーストラリアの国家実行について調査・研究を行ったことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、①現代の海上安全保障問題を人間の安全保障の観点から捉え直すこと、②海上安全保障に関わる事例の分析を通じて、「海上安全保障の国際法」における国際人権法の適用について明らかにすること、及び③「海上安全保障の国際法」の履行における国家主体と非国家主体の連携事例を収集し、その国際法上の意義について包括的に分析することである。これまでのところ、①については、国連文書や海上安全保障に関する著作を分析したほか、ボート・ピープルや気候変動による海面上昇等の現代的課題を検討することにより実証を試みている。②については、海洋環境保護と人権との関わり、そしてボート・ピープルの海上における人権保護という観点から、それぞれ調査を行い分析を進めている。③についてはすでに概論を国際学会で発表し、引き続き理論化のため具体的事例の収集を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、海上安全保障問題における民営化(privatization)について具体例を収集し総合的な分析を行う。また、ボート・ピープルの事例については、とりわけ海上執行活動における武器使用の問題を取り上げ、各国の押し返し政策実施における武器使用についてその国際法上の合法性を、国連憲章・国連海洋法条約・国際人権諸条約に照らして検討する。平成29年度は、すでに①ヴァージニア大学海洋法政策センター主催の第41回国際会議において海洋環境の保護と人権の関係について、②アジア太平洋海洋法研究所合同国際会議において海上法執行の諸問題について、③第6回アジア国際法学会大会にて、ボート・ピープル押し返し政策における武器使用の国際法上の合法性について、研究発表を行うことが確定している。また、ヨーロッパにて第2回目の海外調査研究を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、科研費課題に関係するものでは、4度の国際会議における研究報告の機会を得た。そのうちの3本を年度内に論文として完成・提出することができた。このほかにも海外から数本の原稿提出を依頼されていた関係もあり、時間の制約から平成28年9月にヨーロッパ国際法学会で報告した論文原稿「海洋法の民営化」に関しては年度内に加筆修正して最終稿を提出することができなかった。若干の次年度使用額が生じたのはこのためである。最終的に上記論文については平成29年度に引き続き具体例の収集をする必要があると判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度も、引き続き調査・研究のための資料収集、国内外の学会やワークショップにおける研究報告、海外調査研究、資料の整理に際して雇用するアルバイトへの謝金、複写代等その他研究活動に必要な経費として使用する予定である。
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