2017 Fiscal Year Research-status Report
海上安全保障の国際法:海洋における人間の安全保障の実現に向けて
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26780027
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Research Institution | Musashino University |
Principal Investigator |
小島 千枝 武蔵野大学, 法学部, 教授 (90711200)
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Project Period (FY) |
2015-03-01 – 2019-03-31
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Keywords | 海上安全保障 / 人間の安全保障 / 国際法 / 海洋法 / 海上法執行 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の第一の実績は、海上法執行に焦点をあて、海賊、違法漁業、海洋汚染、密航、密輸などの事例における我が国の実行と、地域的・国際的な協力の枠組みについて検討を行ったことである。同研究では、国家機関による海上法執行の実行について明らかにされた一方で、その限界を補うために企業や市民社会を取り込んだ地域的・国際的協力の仕組みを構築すべきではないかという課題が残された。同研究の成果は、第5回アジア太平洋海洋法研究所合同国際会議において報告し、論文にまとめた(平成30年度公表予定)。第二の実績は、世界各国で難民押し返し政策が軍事化されていることについて批判的検討を行い、海上法執行における武器の使用が許容される国際法上のルールについて調査・研究したことである。同研究では、難民押し返しのために取られる武器を使用した海上法執行活動は、サイガ号(第2号)事件判決やガイアナ・スリナム仲裁判決で確認された海上における武器の使用に関する慣習国際法上のルールに反しているとの結論に至った。研究成果は、第6回アジア国際法学会ソウル大会にて報告している。第三の実績は、陸に起因する海洋汚染について人権保護の観点から捉え直すことを試み、論文を執筆した(平成30年度公表予定)。同論文では、国連海洋法条約における海洋生物資源の持続可能な利用や海洋汚染の防止についての規定が人権概念と深く結びついていること、また、人権の視点から海洋汚染の問題を捉えることにより、国連海洋法条約における国家の環境保護責任をより実効的なものにする可能性があることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、①現代の海上安全保障問題を人間の安全保障の観点から捉え直すこと、②海上安全保障に関わる事例の分析を通じて、「海上安全保障の国際法」における国際人権法の適用について明らかにすること、及び③「海上安全保障の国際法」の履行における国家主体と非国家主体の連携事例を収集し、その国際法上の意義について包括的に分析することである。これまで、①と②については、非伝統的な海上安全保障問題、すなわち違法漁業、海洋汚染、気候変動による海洋生物資源の減少、ボート・ピープル等の問題を取り上げ、人間の安全保障や人権との関連性に焦点を当てながら検討を進めている。③については平成28年度に概論を国際学会で発表し、引き続き理論化のための具体的事例の分析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の前半は、引き続き海洋法の民営化事例の調査・分析を継続する。平成29年度までは主として海上法執行における民営化の事例を検討したが、平成30年度は海洋環境の保護や海洋資源の管理に焦点を当て、国家と非国家主体が連携して活動している事例を収集・分析する。また、1年を通じて、これまて得られた研究成果を最終的に本としてまとめる作業に専念する。平成30 年度には、ヴァージニア大学海洋法政策センター主催の第42回国際会議(於北京)およびアジア太平洋海洋法研究所合同国際会議(於シドニー)にて、海洋環境保護に関する研究報告を行う予定である。
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Causes of Carryover |
平成29年度は、年度初めに雇用していたアルバイトが個人的事情により辞めたことにより、資料の整理により多くの時間がかかった。これにより予定されていた海外調査研究の時間を確保できなくなった。これらが、旅費及び人件費・謝金の使用が減り、次年度使用額が生じた理由である。 平成30年度は速やかに新たなアルバイトを雇用する予定である。引き続き、調査・研究のための資料収集、国内外の学会やワークショップにおける研究報告、海外調査研究、資料の整理に際して雇用するアルバイトへの謝金、複写代等その他研究活動に必要な経費として、効果的に使用する予定である。
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