2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26780034
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
神吉 知郁子 立教大学, 法学部, 准教授 (60608561)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 就労価値 / 自立支援 / 最低賃金法 / 生活困窮者支援 / 勤労の権利 / 勤労の義務 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,就労が権利性と義務性の2つの側面をもち,それらが特に労働法と社会保障法の連携の場面において対立するという状況を背景に,法的な検討をすることを目的としている。具体的には,就労の価値の法体系における理論的な位置づけを明らかにし,とりうるべき具体的な法政策を提言する。 そのための比較法的素材として計画していた,イギリスとカナダの法制度の検討に関して,平成26年度は,法制度に関する文献を渉猟し,基本的な制度を網羅する環境を構築した。さらに,カナダの研究者や実務家に質問する機会をもち,最新の情報を得ることができた。また,イギリスの理論および制度に関しても比較法的考察をし,これらの研究成果を日本労働法学会第127回大会のミニシンポジウムにて,「就労価値」論の理論課題として報告した。この報告は,労働法と社会保障法の境界領域に位置づけられる,生活困窮者支援体系における自立支援制度に着目して,イギリスの2013年最高裁判決の理論や日本の2007年最低賃金法改正の論理構成を考察しながら,就労または就労努力の履践を義務づけることの法的根拠の正当性を論じたものである。同学会において過去に同様のテーマが扱われたことはなく,その独自性と新規性が注目された。特に注目されたのは,就労に関する政策論としてはこれまで就労インセンティブを与えるという経済的側面の議論が主流であったところ,権利性と義務性という法的側面からアプローチした点である。シンポジウムではフロアからも多くの質問があり,約1時間にわたる活発な議論がなされた。それらの議論の成果についても考察を深め,日本労働法学会誌にて報告と同タイトルの論文として公表した。 その後,「就労」とは事実上の正反対の状態である「休業」に着目して,類似概念である休日や休暇を含めた法的位置づけを試みた。この成果については,平成27年度に公刊予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イギリスとカナダ,日本における社会保障法と労働法の基本的文献構築がすすみ,それに基づいた知見が形成されつつある。日本の法制度については,憲法上の労働関係条文について,労働法的観点からの新たな位置づけを試みた。諸外国の法制については,第一に労使間の諸問題について集団的自主的解決を第一次的に図るカナダとの比較をおこなった。第二に,近年アクティベーションという名目で社会保障給付要件として就労努力を位置づけているイギリスの法的状況を考察した。 イギリスと同様の傾向は,日本の生活保護制度ないし生活困窮者自立支援法の枠組みでも出現しつつある。しかし同時に,その副作用ともいえる一定の状況が生じている。このような問題意識をもとに,イギリス最高裁判決とその評価を素材として,新たな問題意識とありうべき方向性の提示を図った。これらの考察をまとめ,日本労働法学会第127回大会ミニシンポジウムでの報告とした。その際,「就労の価値」を個人的価値と社会的価値に大別し,さらにそれぞれを金銭的価値と非金銭的価値とに分類し,分析軸とする手法は,従来にない研究として評価された。学会報告にその後の考察を加えた論文は,日本労働法学会誌に掲載された。 このように,就労価値の多元性についての概念整理を中心として,平成26年度の研究計画としていた法的現状分析と比較法的理論分析は,ほぼ予定通り達成している。以上が,本研究がおおむね順調に進展していると考える理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
労働法と社会保障法の分野は,先進国では共通して非常に法改正の頻繁な分野である。そのため,継続的な文献収集による知見の確保が課題となる。今後も引き続き,重要な文献を収集し,かつ諸外国の研究者と意見交換することで,最新の正確な知識の補充につとめたい。 理論的な分析については,平成26年度は就労の義務的側面についての考察が中心となった。今後は,権利としての就労の側面についても検討する予定である。特に,勤労の権利と勤労の義務との相互関係は,憲法学の分野でもあまり取り扱われていない領域であるため,労働法および社会保障法の見地から,生存権との関係性を軸に整理し,一定の見解を打ち出したい。 さらに,そのような理論研究を深めるとともに,具体的な政策提言ができるよう,給付つき税額控除やベーシックインカムなどの制度についても,諸外国の実務上の経験をもふまえて研究を深める予定である。とりわけ,無条件給付としてのベーシックインカムと対比することで,就労を通じた給付の特殊性や意義を析出し,税制度も考慮に入れた上での労働と社会保障に関する制度設計の具体的提言につなげていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
支出はほぼ予定通りであったが,消耗品の額が想定より少なかったため,若干の余剰が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
小額であるため,消耗品費として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)