2015 Fiscal Year Research-status Report
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26780034
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
神吉 知郁子 立教大学, 法学部, 准教授 (60608561)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 最低賃金法 / 生活賃金 / 有期労働契約 / 従業員代表制 / 福祉から就労へ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,就労における権利性と義務性という二面性の法的検討である。社会保障制度の設計において,低賃金というリスクを認めるとした場合に,当該リスクに対応する制度として所得補助制度が適切か,その場合に就労を要件化すべきか,といった問題意識を深めるのが平成27年度の研究計画であった。比較法的検討の対象のうち,イギリスについては,平成27年5月に成立した保守党単独政権が,強力に最低賃金制度の改革を進めているなかで,注目すべき立法提言があった。これまで反対の立場をとってきた「生活賃金」という概念に言及し,最低賃金の大幅な引き上げの根拠としたのである。この点を,大きな転換とみることも可能である。一方,同時に導入が検討されている給付つき税額控除の削減と併せてみれば,福祉から就労への動きをより促進するアクティベーション施策と評価することも可能である。そうだとすれば,まさに就労の義務的側面の強化である。このような視点から,立法の背景や議論を分析することで,上記問題意識を掘り下げ,具体的法政策の提言を行ううえでの示唆を得ることができた。その一部は,「最低賃金引上げの意義」(研究発表欄参照,以下同じ)において公表した。また,実体的権利の実現を支える集団的装置の考察として,「従業員代表制設計の検討課題」を発表した。その他,昨年度の検討テーマを公表した休暇や休業についての考察や,有期労働契約の更新に関する考察,また損益相殺の視点からみた労働者災害補償保険法と民法の調整など,研究領域を各法の境界領域にまで広げることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は,文献構築と並行して実態調査に注力した。夏期には,イギリスの研究者や労働組合職員,業者団体や行政機関などにインタビューを行い,法の実務上の運用実態を知ることができた。昨年度の文献構築によって浮かび上がってきた法律解釈上の問題点について調査し,実際の適用場面でどのように取扱われているかが明らかになることで,国によって異なる解釈論と立法論との境界が理解できた。これは,平成27年度の研究計画としていた「比較法的研究の展開」と「法政策の具体化」にあたる成果である。以上より,研究はほぼ計画通り進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は,比較法的研究を統合し,社会的背景と問題意識,解決の組み合わせを理論的に整理し,選択肢として提示する段階へと進める予定である。とくに労働法史上初となる概念の導入であるイギリスの最低生活賃金については,その導入の効果を丹念に分析して法的論理を明らかにし,既存の労働法と社会保障法の枠組みに対して新たな選択肢を提示したいと考えている。
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Causes of Carryover |
為替の変動を見込んで計算していた旅費等が,予想より若干下回ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度にあたる今年度は,書籍(物品費)等,これまでの研究の発展的遂行のための経費以外に,成果発表のための手段に使用する予定である。具体的には,研究成果を統合するためのPC環境整備や,論文作成,英文校正,投稿等の費用に充当する計画である。
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Research Products
(5 results)