2014 Fiscal Year Research-status Report
不公正概念の理論的基礎:消費者による選択肢確保をめぐる競争の観点からの比較法研究
Project/Area Number |
26780035
|
Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
井畑 陽平 椙山女学園大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (80467406)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 独占禁止法 / 不公正性 / 連邦取引委員会 / FTC法5条 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的とは、わが国独禁法の母法である米国連邦取引委員会法5条に基づき「不公正な行為・慣行」として規制された先例と、EU機能条約102条に基づき不公正であるとして規制された消費者搾取型濫用行為にかかる先例との分析を主としながら、従来、便益と費用という分析になじまないため、その内容の検討が十分にはなされない傾向にあった「公正性」にかかる理論的基礎について、明らかにすることである。 平成26年度は、本研究全体に関する文献検索および収集を実施した。以下、敷衍する。 年度前半は、わが国の審判決例の収集と分析に重点を置いて研究を進めた。具体的には、研究課題に関係するわが国の審判決例を、独禁法にかかる事案に限らず収集しデータベース化する作業を行った。 年度後半は、不公正をキータームとして、米国法を考察する上で必要な先例および二次文献の収集と分析に重点を置いて研究を進めた。とりわけ、米国における反トラスト法の1つである連邦取引委員会(FTC)法5条を根拠として消費者に対する「不公正な行為・慣行」を規制している米国での先例を収集し、不公正概念が先例においてどのように理解されてきたかを分析した。FTCに着目した理由は、消費者に実質的な損害を与えるものか否かを最重要視して、多岐にわたる行為をFTC法5条に違反する「不公正な行為・慣行」として禁止し、規制しているため、上に述べた作業を通じて得られたわが国の先例とFTC法5条にかかる先例とを比較することで、各国法を個別に眺めているだけでは把握しにくい、不公正概念にかかる日米法の共通理解を深められると考えたためである。なお、公正取引委員会及び駐米大使館の支援を受けて、年度末(2015年1月)に、本研究課題にも関連するテーマについて、米国での現地調査(連邦司法省及びFTC政策担当者へのインタビュー)を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した「研究の目的」の達成度について、おおむね順調に進展している、と自己評価した理由は以下の通りである。 本研究が対象とする分野では、法規制、実務、そして研究面において、常に新しい動きがあることを考慮すると、検討の対象としていた制度的枠組みが大きく変容したり、あるいは、より重要な検討対象が生まれるという事態もあり得るところである。このような事態に対しては、当該変容の過程で行われる議論や当該対象に関する外部での議論をも本研究の検討対象に取り込み、その適否を検討した上で独自の分析を進める必要がある。また、本研究を進めていく過程で、状況の変化によっては、外部の研究者の専門性を活用する等の必要が生じる可能性もある。こういった事態については、随時、必要となる専門性を持つ外部の研究者の協力を仰ぐなど、柔軟に対処する姿勢で臨んでいる。 平成26年度末の時点では、研究機関を通じて、判例等の一次資料及び論文・著書等の研究課題に関連する二次資料について、最新のものを入手できている。また、公正取引委員会競争政策研究センター(CPRC)を構成する学者メンバーとの討論等を通じて、研究を進めるにあたり取り組むべき課題やその対処方法の適正性についても担保できていると考えている。以上に加えて、当初平成27年度に予定していた米国での現地調査を、前倒しして、平成26年度に実施することができたのは研究遂行上、非常に有益であった。 当初の計画以上に進展していると評価しなかった理由は、ここまで得られた成果を論文として公表する作業が平成27年度前半に持ち越された点にある。成果を公表するための作業は、現在、鋭意進めているところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策は、次のとおりである。 すなわち、本研究の研究遂行にあたり、3年間にわたる本来は1つの研究を複数の段階に分け、それによって、単年度ごとに研究成果が出るようにしたことである。すなわち、本研究は、3年間の研究期間を、第一期(平成26年度)、第二期(平成27年度)、そして第三期(平成28年度)に分けて遂行されている。 各期を通じて、一定の成果が得られた各段階で調査報告という形で、複数の研究会において報告・発表し、さらにその過程で得られた知見をふまえて論文として公表し、それらに対する意見を積極的に求める予定である。こうすることで、そこまでの研究の客観的な位置づけをうるとともに、独善とならないよう十分に努め、次期の研究の方向性の適切さを担保しつつ、研究を遂行できると考えている。 平成27年度前半は、とりわけ、米国における最新の実務及び学説の動向把握に努める。具体的には、FTCおよび州消費者保護当局が共催する消費者問題分科会ならびに同年同時期開催予定のABA反トラスト部会主催の消費者保護カンファレンスに参加する。同年度後半は、米国法における不公正概念の相対化を図るべく、EU法における不公正概念の理論的基礎を考察する上で必要な先例の収集と分析に重点を置いて研究を進める。具体的には、不公正概念の外延を検討するための素材として、EU機能条約にかかる先例を収集する。また、ここまでの中間的な研究成果について、平成28年1月頃に関西独禁法研究会で成果を報告し、その後の研究期間における研究目標の再検討に生かす予定である。 なお、平成28年度は、年度を通じて、本研究によって得られた成果をわが国に応用可能な形で具体化させる作業を行い、併行して市民向けの講演の機会を活用し、本研究の成果を、わかりやすくかつ広く社会に還元したい。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額として、183円生じた。これは、直接経費と間接経費とを合計した平成26年度に予定された総額の0.02%に相当する。おおむね、許容される範囲に収まるものと考えている。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度中には、研究成果の部分的な公表を予定しているため、その経費の一部に優先的に充当したい。
|
Research Products
(2 results)