2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26780040
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
成瀬 剛 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (90466730)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 悪性格証拠 / 類似事実による立証 / 刑事証拠法 / 裁判員制度 / 英米証拠法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度前半は,アメリカにおける悪性格・類似事実による立証の諸相を包括的に考察した。 まず,スタンフォード・ロースクールのGeorge Fisher教授にアドバイスを頂きながら,アメリカ連邦証拠規則を検討対象として①悪性格立証(404条(a))と類似事実による立証(404条(b))の共通点・相違点,②実質証拠として用いる場合の立証事項(犯人性・主観的要素・客観的行為)と許容性基準の関係,③実質証拠として用いる場合(404~406条)と証人尋問において補助証拠として用いる場合(608~609条)の区別などを考察し,悪性格・類似事実に関する議論の枠組を確立した。この議論枠組は以後の比較法研究の指針にもなる。 また,許容性審理のあり方,証人尋問における補助証拠としての用い方,量刑事情としての悪性格・類似事実の審理方法については,連邦裁判所及び州裁判所に足を運んで公判前手続・陪審裁判・量刑手続を傍聴し,現地の法曹関係者にインタビューをすることにより,実務の運用を把握した。 本年度後半は,イギリスにおける悪性格・類似事実による立証を理論的・実務的観点から考察した。 まず,法律委員会による1996年の諮問書及び2001年の最終報告書を検討して2003年刑事司法法制定に至るまでの議論を把握すると共に,同法制定後の判例理論については,J.R.Spencer, Evidence of Bad Character (2d ed. 2009)を検討指針としつつ, 同書の著者であるSpencer教授に対するインタビューも行うことにより,その内容の理解に努めた。また,アメリカの場合と同様に,Crown Court,Magistrates' Courtに足を運んで,実務における悪性格・類似事実の取り扱いを把握すると共に,現地の法曹関係者にインタビューをすることにより,その背後にある考え方を考察した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,以下の2つに分けられる。第1に,悪性格・類似事実を実質証拠として用いる場合と補助証拠として用いる場合に区別した上で両者の許容性判断基準を提示すること,第2に,悪性格・類似事実の許容性を審理する手続や量刑事情としての審理のあり方を明らかにすることを通じて,他の証拠群にも応用可能な刑事証拠法の手続法的側面を深化させることである。今年度の研究成果は,これら2つの目的に対して,以下のような意味を持つ。 第1の目的との関係では,悪性格・類似事実を実質証拠として用いる場合の判断枠組についてアメリカとイギリスの間に差異があることを明らかにした。具体的には,アメリカ連邦証拠規則においては,当該証拠が「性格」を証明するために用いられるのか(404条(b)1項),それとも,「動機,機会,意図,予備,計画,知識,同一性の証明等の他の目的」(404条(b)2項)や「習慣」(406条)を証明するために用いられるのかという推論過程の違いが重視されているのに対し,イギリス2003年刑事司法法においては,端的に当該証拠の証明力と弊害を直接衡量して採否を決するという基準が採用されており(101条1項(d),3項),「性格」を介在させた推論過程も否定されていない(103条)。 第2の目的との関係では,今年度前半にアメリカ・スタンフォード大学,後半にイギリス・ケンブリッジ大学に客員研究員として在籍していたことを活かし,両国の裁判所で公判前手続・陪審裁判・量刑手続を多数回傍聴したほか,現地の法曹関係者(裁判官・検察官・弁護人)にもインタビューをすることにより,文献検討だけでは理解が困難な悪性格・類似事実の許容性審理手続や量刑事情としての審理のあり方について両国の実務運用を明らかにした。 以上の通り,今年度の研究成果は2つの目的に対してそれぞれ重要な貢献をするものであるので,上記の自己評価をした。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成27年度前半は,イギリス法の知見を踏まえて,カナダ法・オーストラリア法の独自性及びその根拠を探求する。 まず,カナダ法については,悪性格・類似事実による立証の許容性に関して,イギリス類似の証明力と弊害の比較衡量基準を採用したカナダ連邦最高裁判所の2002年Handy判決を軸としつつ,同判決の提唱した証明力及び弊害を判断する際の具体的な考慮要素の有用性について考察する。他方,オーストラリア法については,連邦法域で制定された1995年証拠法がイギリス類似の証明力と弊害の比較衡量基準を採用しながらも,その前提要件として悪性格・類似事実に対し実質的な証拠価値を要求した点に着目し,この要件が設定されるまでの経緯をオーストラリア法改正委員会の報告書で確認すると共に,その意義・実益を同法制定後の判例・学説を通じて考察する。 平成27年度後半は,ドイツ法が悪性格・類似事実に関する問題を(許容性段階ではなく)証明力段階においてどのように規律しているかという点について,定評のあるUlrich Eisenbergの証拠法注釈書などを用いて検討することにより,許容性段階での規律を重視する英米法諸国の立場を相対化し,かつ,より深く理解する。また,前3期に積み残した課題があれば,その補充も行い,比較法研究の総まとめを行う。 平成28年度前半は,前2年間の比較法研究によって獲得した議論枠組を前提とした上で,日本における近時の最高裁判例や主要な裁判例,従来の学説をその中に位置付け,日本の議論において不足している点や修正すべき点を明らかにする。 平成28年度後半は,以上の全ての考察を踏まえて,悪性格・類似事実を実質証拠として用いる場合及び補助証拠として用いる場合の許容性判断基準を提示するとともに,許容性審査手続のあり方や量刑事情として悪性格・類似事実を用いる場合の審理方法について具体的な提案を試みる。
|
Causes of Carryover |
次年度に使用する予定の研究費(約41万円)が生じたのは,以下の2つの理由による。 第1に,今年度前半はアメリカ・スタンフォード大学,後半はイギリス・ケンブリッジ大学に客員研究員として在籍していたため,今年度の研究に必要なアメリカ・イギリス証拠法に関する文献の多くは,両大学の法学図書館において参照することができ,購入の必要がなかった。第2に,次年度のアメリカ・カナダ出張のための旅費を捻出するため,あえて物品費の予算執行を抑えた面もある。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は新たに請求する分と合わせて,約131万円の研究費を使用できることとなる。その具体的な使用計画は,以下のとおりである。 まず,カナダ・オーストラリア・ドイツにおける悪性格・類似事実の取り扱いを検討するため,各国の証拠法関連図書を20万円ずつ購入する(20万円×3カ国=60万円)。他方,日本においても悪性格・類似事実による立証に関する議論が急速に進展しているので,その最新動向を把握するため,日本の証拠法関連図書も20万円程度購入する。また,各国の証拠規律を検討するには図書のみならず判例及び論文も大量に検討する必要があるので,そのデータベース資料の印刷代及び図書室における文献複写代として,約6万円使用する。さらに,アメリカ・カナダへの出張旅費として45万円を充てる。この出張では,両国の悪性格・類似事実に対する規律について,現地研究者・法曹関係者と意見交換をする予定である。
|