2015 Fiscal Year Research-status Report
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26780040
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
成瀬 剛 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (90466730)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 悪性格証拠 / 類似事実による立証 / 刑事証拠法 / 裁判員制度 / 英米証拠法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度前半は,前年度に得たアメリカ法・イギリス法の知見と比較しつつ,カナダ法・オーストラリア法の独自性を探究した。 悪性格・類似事実を実質証拠として用いる場合の許容性基準について,カナダでは,2002年に連邦最高裁判所が出したHandy判決によって,アメリカ連邦証拠規則404条のような推認過程の違い(性格を介した推認をするか,それとも,動機,意図,計画,知識,同一性の証明など他の目的を推認するか)を重視する立場から,イギリス2003年刑事司法法101条1項(d),3項のような当該証拠の証明力と弊害を直接衡量して採否を決する立場への変更がなされた。証明力を評価するための考慮要素を詳細に示し,弊害の評価においても前科と併合審理されている類似事実の違いを意識している点に特徴がある。他方,オーストラリアの1995年連邦証拠法では,Tendency Rule(97条),Coincidence Rule(98条)によって,アメリカ連邦証拠規則404条のような推認過程の違いを重視する立場が維持されている。ただし,性格を介した推認であっても,当該推認が重要な証拠価値を持ち,弊害の程度を実質的に上回るならば許容されるので(101条2項),アメリカ法と異なる点もある。 これに対し,悪性格・類似事実を補助証拠として利用できる場面はカナダ法・オーストラリア法ともに限定されており,補助証拠としての利用を広く認めるアメリカ法・イギリス法の立場と好対照をなしている。 本年度後半は,ドイツにおける悪性格・類似事実の規律を英米法諸国の立場と比較しつつ検討した。 職権主義のドイツでは,悪性格・類似事実に対して証拠能力規制を及ぼすという発想はないが,証明力段階ではこれらの証拠に依拠して有罪認定を行うことの危険性が意識されており,原則として,他の有罪証拠が存在する場合に補助的に用いることしか認められていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,以下の2つに分けられる。第1に,悪性格・類似事実を実質証拠として用いる場合と補助証拠として用いる場合に区別した上で,両者の許容性判断基準を提示すること,第2に,悪性格・類似事実の許容性を審理する手続や量刑事情としての審理のあり方を明らかにすることを通じて,他の証拠群にも応用可能な刑事証拠法の手続法的側面を深化させることである。今年度の研究成果は,これら2つの目的に対して,以下のような意味を持つ。 第1の目的との関係では,悪性格・類似事実を実質証拠として用いる場合の規律として,推認過程の違いを重視するアメリカの立場と証明力と弊害を直接衡量するイギリスの立場との間に両者の混合形態が存在することを明らかにした。具体的には,カナダは基本的にイギリスのような比較衡量の立場を採用しつつも,当該証拠の証明力を評価する際にはアメリカのような推認過程の違いを意識している。他方,オーストラリアは基本的に推認過程の違いを重視するアメリカの立場を採用しつつも,一定の例外的場面では,イギリスのように証明力と弊害の比較衡量に基づいて,性格に基づく推認を許容している。 また,英米法諸国の中でも,悪性格・類似事実の補助証拠としての利用に対する規律は様々であり,利用を広く認めるアメリカ・イギリスの立場に対して,限定するカナダ・オーストラリアの立場も存在することを明らかにできた。 第2の目的との関係では,日本と同様に罪責審理と量刑審理が区別されていないドイツにおいて,量刑資料として提出された前科証拠を犯罪認定に用いないようにするための審理上の工夫がどのようになされているのかを,現地の参審裁判の傍聴や法曹関係者(裁判官・検察官・弁護人)へのインタビューを通じて明らかにすることができた。 以上の通り,今年度の研究成果は2つの目的に対してそれぞれ重要な貢献をするものであるので,上記の自己評価をした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度前半は,前2年間の比較法研究によって獲得した議論枠組を前提とした上で,近時の最高裁判例(最判平成24年9月7日刑集66巻9号907頁,最決平成25年2月20日刑集67巻2号1頁)や主要な裁判例(例えば,大阪高判平成17年6月28日判タ1192号186頁や東京高判平成20年12月16日判タ1303号57頁),これまでの学説をその中に位置付け,日本における悪性格・類似事実の議論の中で不足している点や修正すべき点を明らかにする。 さらに,当初の研究計画には含めていなかったが,英米法諸国においては,被告人の悪性格・類似事実の問題と並んで,性犯罪被害者の性的行動・傾向を実質証拠・補助証拠として用いることの可否も活発に議論されているので,アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリアのいわゆるRape Shield Lawについても検討し,悪性格・類似事実による立証の問題をより多面的に考察したい。 平成28年度後半は,以上の全ての考察を踏まえて,被告人の悪性格・類似事実を実質証拠として用いる場合及び補助証拠として用いる場合の許容性審査基準を提示するとともに,許容性審査手続のあり方や量刑事情として悪性格・類似事実を用いる場合の審理方法について具体的な提案を試みる。 加えて,これまで日本ではほとんど議論されてこなかった性犯罪被害者の性的行動・傾向を実質証拠・補助証拠として用いることの可否についても,実務・学界に対して問題提起をしたい。
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Causes of Carryover |
次年度に使用する予定の研究費(約70万円)が生じたのは,以下の3つの理由による。 第1に,今年度の前半はイギリス・ケンブリッジ大学に客員研究員として在籍していたため,研究に必要なカナダ・オーストラリア証拠法に関する文献の多くは,同大学の法学図書館において参照することができ,購入する必要がなかった。第2に,今年度後半に予定していたアメリカ出張は,他の英米法諸国(イギリス・カナダ・オーストラリア)との比較やRape Shield Lawに関する検討をもう少し深めてから行った方が良いと判断し,来年度に延期したため,その分の旅費が繰り越しとなった。第3に,来年度はオーストラリア出張も予定しており,そのための旅費を捻出するため,あえて物品費の予算執行を抑えた面もある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は新たに請求する分と合わせて,約140万円の研究費を使用できることとなる。その具体的な使用計画は,以下の通りである。 まず,指導的な最高裁判例の登場により急速に活発化している悪性格・類似事実の議論を網羅的に検討するため,日本の証拠法関連図書を40万円程度購入する。また,新たに研究課題に加えた英米法諸国のRape Shield Lawを検討するため,アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリアの関連文献を10万円ずつ購入する(10万円×4カ国=40万円)。さらに,アメリカ出張旅費に30万円,オーストラリア出張旅費に30万円を充てる。これらの出張では,現地の研究者との意見交換によって,悪性格・類似事実に対する両国の規律の理解をさらに深めるとともに,法曹関係者へのインタビューによって,文献調査では理解することが難しい許容性審理における実務上の工夫等について明らかにしたい。
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Research Products
(3 results)