2016 Fiscal Year Research-status Report
少年司法における「責任」概念の再検討と少年非行への対応のあり方
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26780041
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
大貝 葵 金沢大学, 法学系, 准教授 (90707978)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 弁識能力 / 教育的措置適用基準 / 人格調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、フランスの1912年7月22日の法律の制定過程における弁識能力概念の位置づけに関し研究を行った。特に、1912年法における教育的措置適用の基準と弁識能力概念との関係性を明らかにした。当該法律前から、犯罪少年への教育的措置の適用の基準は、弁識能力の有無によることが刑法上規定されていた。このような規定は、1912年法においても13歳以上18歳未満の犯罪少年に対して引き継がれている。他方で、13歳未満の少年については、弁識能力を一律に否定する刑事未成年の制度が導入されたことにより、すべての少年が教育的措置の対象となった。したがって、1912年法制度のもとでは、教育的措置適用の基準は弁識能力の有無であったということができる。 一方で、法と実務とのかい離が明らかとなった。すなわち、少年に教育的措置の適用が必要か否かを判断が先行し、その判断にあわせる形で弁識能力の有無が言い渡されていたことが、本研究を通じてはじめて明らかとなった。したがって、実質的な教育的措置適用の基準は、少年の教育的措置の必要性によっていたことが認められる。この教育的措置の必要性は、少年に対する様々な調査に基づいており、裁判官の決定に大きな影響を与えていたことも判明した。 このような実務運用を踏まえて、1912年法の法案段階では、弁識能力の有無ではなく、少年の人格的状況に応じて、教育的措置の適用を判断できる旨の規定が盛り込まれることも提案されていた。上記研究の成果により、このような法と実務との齟齬を前提とした場合、1912年法における弁識能力概念の意義がどこに見出せるのかが今後の研究課題となることも明らかとなった。加えて、上記実務運用が、いかなる状況の下で生じ始めたのかにつき、1912年法以前の法制度および実務につきさらなる研究が必要であることも判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
弁識能力概念を研究するにあたっては、最初のフランス少年法が制定された1912年法の前後、現行フランス少年法制定に向けた1942年から1945年前後、弁識能力概念につき重要な改正が行われた2002年以降の5区分に分けて、教育的措置適用基準との関係を検討する必要がある。 現在までのところ、1912年法前における弁識能力概念と教育的措置適用との関係性につき、学説および判例の状況の資料収集が終わり、検討に入っている。また、検討を終えた物から順次、公表していく準備段階にある。 さらに、1912年法の制定過程における議論状況については、すでに公表している。また、当該法律の学説による評価を検討するにあたり、1912年法に関連する資料については、収集を終えており、検討に入っている。 1942年以降の状況については、今後の課題である。 さらに、1945年オルドナンス以降2002年までの間、少年司法における弁識能力概念の位置づけの変遷につき、重要な判例となるラブーベ判決について、現在研究を進めている。 当初の計画では、上記区分のうち、4つ目までの検討を終えているはずであった。しかしながら、1912年法以前および1912年法についての文献が、予測していたよりも多数に上りかつ資料の年代が古いこともあり入手に思った以上に時間を要したため、現段階の進捗状況となっている。さらに、出産および育児のため、現代の状況につき、現地での調査を予定していたが、実現しておらず計画よりやや遅れている状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に1912年法以前の、弁識能力概念と教育的措置適用の基準との関係につき、現在検討が終わっているものから随時公表していく。 第二に、1912年法における弁識能力概念の位置づけについて、学説の評価を検討する。1912年法については、すでに収集済みの資料の検討を開始する。 これらの議論が、1942年までにいかに変遷していくのかにつき、1942年法前の学説を検討するとともに、実務を調査する。 これらの知見を踏まえて、現在、日本において問題提起されている「要保護性」の概念につき、考察を行うこととする。 予想以上に1912年法前後の資料が多数に上るうえ、弁識能力概念につき多様な学説が提示されており、整理に時間を要しているが、1912年法前後につき、まずは研究を公表していく次第である。
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Causes of Carryover |
研究につき、当初予定していたよりも資料が多かったうえ、収集すべき資料の年代が古く、当初の計画通りには資料がそろわなかった。資料の多さから、資料の整理および検討にも計画以上の時間を要している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年9月に渡仏し、資料収集(BnfおよびENAPの図書館)(物品)および弁識能力概念につき検察および裁判官に聞取り調査を行う(旅費)。さらに、人格調査の運用につき教育士に聞取り調査を行う。この際、議論の円滑性を重視し、通訳を依頼する。(その他)。2017年度内に、随時、国内研究会および学会へ参加し、研究の知見を得るとともに、自身の研究につき課題につき解決策を探る(旅費および物品)。2018年3月に渡仏し、犯罪少年の処遇に関する官民の連携につき調査する。これは、教育的措置の適用にあたり、適用基準と基準に沿った措置との整合性を検討する為である(旅費)。同様に、通訳を依頼する(その他)。 フランスにおける弁識能力概念と教育的措置適用の基準に関する資料をまとめたものを随時公表する。さらに、聞取り調査の結果も踏まえ、日本における司法的と福祉的措置の適用を可能とする判断基準についての考察を公表する。
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