2016 Fiscal Year Annual Research Report
On Decision-Making by Tort Victims
Project/Area Number |
26780051
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Research Institution | Tokyo Keizai University |
Principal Investigator |
永下 泰之 東京経済大学, 現代法学部, 准教授 (20543515)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 民事法学 / 損害賠償 / 注意義務 / 素因 / 法の経済分析 / 限定合理性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、被害者の「過失」につき、不法行為前後の被害者の意思決定に着目して、事理弁識能力の要否を再検討するものであり、ひいては今日における過失責任主義のあり方を模索するものである。 本年度は、最終年度ということもあり、これまでに収集・分析してきた資料の再検討を中心に行ってきた。また、本年度は、労災事例における損害賠償責任と被用者の素因との関係に関する研究論文を執筆した。なお、同研究論文の執筆に当たり、情報を刷新する必要が生じたため、ドイツ(マックス・プランク外国私法・国際私法研究所@ハンブルク)を訪れ、資料収集を行った。同時に、現地研究者(Hannes Roesler教授(ジーゲン大学教授))と意見交換も行うことができた。以上の成果は、上記研究論文に反映されている。 過失相殺制度における被害者の過失を「(被害者として)期待される行動パターンからの逸脱」と捉えると、被害者はいわゆる「合理人」が想定されることとなる。すなわち、合理的に意思決定できる者が前提とされるのである。そして従来の議論においても、被害者には「通常人」あるいは「合理人」が想定されていると考えられる。しかし、意思決定という点に着目すると、今日においては、人は「限定合理性」を有する、すなわち「完全に合理的に判断することはできない」者であるとの見解が有力となっている。こうした人物像は、「東芝(うつ病・解雇)事件」(最判平成26年3月24日労判1094号22頁)において、加害者(使用者)として想定すべき旨の判断がなされているように、今日においてはある程度想定されているように思われる。したがって、こうした状況を踏まえると、被害者の「脆弱性」(素因)といったリスク因子は加害者側の注意義務の内容・目的に取り込まれることとなり、「脆弱性」それ自体を過失相殺事由とすべきことはできないということができよう(上記研究論文を参照)。
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