2014 Fiscal Year Research-status Report
純粋環境損害の私法上の救済をめぐる解釈論的・立法論的研究
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26780052
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
小野寺 倫子 秋田大学, 教育文化学部, 講師 (10601320)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 純粋環境損害 / フランス民事責任法 / 損害賠償 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、環境侵害から環境それ自体に生じた損害((純粋)環境損害)の私法上の救済に関するフランスにおける解釈論上および立法論上の議論を参照し、民事責任法において特定の法主体に直接的な被害が及ぶ前の段階にある環境侵害に対処する可能性を探求するものであり、平成26年度の研究では、近時のフランスにおける立法動向を参照した。 フランスにおいては、1970年代から環境侵害に対する私法上のサンクションの可能性が探求され、とりわけ1990年代以降は民事責任法に基づく純粋環境損害の賠償という形での環境侵害の私法上の救済が目指されてきた。特定の個人に帰属しない環境のような利益については、伝統的には私法ではなく、公法によって保護されるものと理解されてきたが、学説は現代社会における環境利益の重要性にかんがみ、純粋環境損害も民事責任法の保護の対象とすべきことを主張してきたのである。そして、2012年9月25日、日本の最高裁判所に当たるフランス破毀院も、石油タンカーの座礁による海洋汚染事故に関する判決において、環境損害が民事責任法上賠償の対象となる損害であることを承認した。 しかし、フランス民法典は民事責任法上賠償の対象となるべき損害は「他人」、すなわち加害者以外の法主体に帰属すべきものと規定している。したがって上記破毀院判決は、いわば反制定法的解釈ともいうべきものであり、その意義について評価は一様ではない。そこで、純粋環境損害の賠償については、むしろ民法典の改正による抜本的な解決が必要であるとの見地から、現在、野心的な民法典改正草案や司法大臣によって設置されたWGの報告書が提案されている。民事責任法から環境侵害にアプローチするフランスの手法には比較法的にその独自性が認められ、特に、本年度の研究において紹介を試みたフランスの立法動向は、日本において同様の問題を考える場合に大いに参考になるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、研究期間2年間(平成26年度、27年度)を予定し、現在のフランスにおける純粋環境損害の賠償を目的とする立法動向の検討、および純粋環境損害の賠償方法(救済手段)に関する課題を克服するための具体的な方策の探求の2つをを当該期間内における到達目標としている。平成26年度は、本研究の第1の到達目標であるフランスにおける環境損害の賠償に関する立法動向に関する研究を実施し、その内容については日本私法学会において個別報告を行い本研究の中間的な成果として公表した。したがって、本研究はおおむね当初の予定通り順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究において、平成27年度に実施を予定しているのは、本研究の第2の到達目標である、純粋環境損害の賠償方法に関する問題(賠償されるべき損害の範囲の確定、損害の金銭評価等)について検討を行うことである。今後は、フランスの環境法・民事責任法研究者から情報を取集しながら、この問題に関する基本文献であるL.Neyret et J.Martin(dir.)Nomenclature des prejudice environnementaux,LGDJ,2012の分析を中心に、関連する最近のフランス民事責任法分野の博士論文等も参照して研究を進め、成果を論文としてまとめ、公表することを予定している。なお、この問題については、すでに26年度中から上記文献の編者の一人であるL.Neyret氏とインタビューおよびメールで研究上の情報交換を行うなどして、研究を開始している。
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Causes of Carryover |
2015年2月ないし3月にフランスにおいてマチルド・ブトネ氏(エクス・マルセイユ大学講師)及びロラン・ネイレ氏(ヴェルサイユ・サン-カンタン-イヴリンヌ大学教授)へのインタビュー調査を予定していたところ、マチルド・ブトネ氏が同年2月から3月にかけて客員教授として約1か月日本に滞在することになり、ロラン・ネイレ氏も3月15日に早稲田大学で開催された国際シンポジュウム参加のため来日した。そのため、東京で開催された本研究のテーマを扱うワークショップ、国際シンポジュウムの際に両氏から本研究に関する情報収集を実施することが可能となり、渡仏の費用が不要になった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用額については、2015年秋ごろに予定している文献収集・フランス人研究者に対するインタビューを目的とするフランスでの海外調査のための渡航費用として使用する計画である。
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