2014 Fiscal Year Research-status Report
原子力災害事例における救済執行手続としての間接強制の弾力的活用
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26780053
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
金 炳学 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (40350417)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 間接強制 / 民事訴訟法 / 民事執行法 / 民事保全法 / 原子力災害 / ドイツ民事訴訟法 / 韓国民事訴訟法 / 環境法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度においては、まず、本研究全体を進めていく上での基礎的な資料の収集およびその分類・分析を実施した。本研究においては、「研究目的」で述べたように、人格権侵害紛争に関する事例の蓄積がみられるEU諸国および日本民事訴訟法と同じ法圏に属する韓国民事訴訟法について、分析・検討を行った。 比較法研究にあたり、主に、2つの観点から重点的に調査・分析を実施した。第1に、対象各国における人格権侵害、原子力災害関連の事例及び対策の調査である。民事訴訟における人格権侵害においては、実体法上の損害賠償とともに、手続法的救済手段としての差止めの実効性が問題となる。これらの事例・判例について、特に、執行機関による間接強制と代替執行の併用の順序、執行方法の選択、判断機関に関して、詳細な調査・分析が必要となるため、この基礎的研究に着手した。 第2に、日本においては、原子力災害に対する法的問題に関する研究領域において、いくつかの文献が散見されるものの、従来、充分な議論がなされてきたとは言い難く、この分野において先行しているドイツの原子力法(AtomG)に基づく差止仮処分に関する比較法的研究が有用である。とりわけ、ドイツでは、近時、原子力災害の対策をめぐって、福島第一原子力発電所事故をかなり意識した判例・学説も見受けられるようであり、重点的に、掘り下げて基礎的考察を行った。 第3に、日本においては、相矛盾する義務を命じる債務名義がある場合の間接強制の許否についてあらそわれた、平成27年1月22日の諫早湾土地改良事業に関する二つの最高裁判例が下され、間接強制論からの検討も必要不可欠となったところ、この問題に関するいくつかの文献をWeb上で公表し、平成27年に掲載誌にて発表することとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究期間においては、「研究目的」で述べている通り、日・独・韓の比較法研究を行う上で、基礎となる資料の収集および整理を中心に、研究を実施した。この点、日本においては、言語上の問題から、日本と同じドイツ民事訴訟法圏にある韓国の民事訴訟法、司法制度に関する研究が乏しいところ、これを補充するいくつかの基礎資料を大学紀要等に掲載し、ひろく、国民の利用に供するため、大学機関リポジトリにおいても、公表を行った。これらの資料は、本研究の目的のみならず、隣接する学問分野においても、貴重な示唆を与える学術資料であり、民事手続法をめぐる比較法全体の基礎的な研究資料の提供に資するところが可能となった。 また、当該研究期間に、福島県内の法テラスのスタッフと協働作業を実施し、学術的な観点のみならず、実務的な観点からも、相互に議論を交わしたことは、東日本大震災後の法律問題に対するユーザーである国民のニーズにつき、フィードバックを効率的に行うこ点で貢献したと評価でき、加えて、福島大学の学生を中心として、最先端の学術・実務領域についての教育とリンクさせることができた。 さらに、原子力災害に限定することなく、諫早湾の土地改良事業をめぐって、相矛盾する義務が衝突する場合の間接強制の許否という民事手続法に投げかけられた課題に取り組んだことにより、間接強制論を中心に、司法制度論、民法実体法、民事手続法、環境法、行政法、法社会学等、関連分野についても、学術的な観点から、貢献することができたと考えられる。 以上の3つの観点を総合的に考慮し、本研究の達成度を、上記のとおり、評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度においては、前年度のドイツおよび韓国との比較法研究を継続的に実施するとともに、地の利を最大限に活かし、フィールドワークを加え、以下の3つの視点から本研究を進める。 第1に、前段階の研究成果を基礎として、人格権侵害・原子力災害に対する執行方法の具体的手段に関する諸外国の判例・学説について分析・検討し、総合的整理を行う。特に、当該段階においては、民事手続法、日本法と類似した規定を有する各国の訴訟手続について諸外国の立法資料・判例・書籍・論文集を追加収集するとともに、引き続き、予防的な人格権保護のための民事手続法上の抑止手段として差止執行に焦点を合わせ、その制度趣旨・運用上の可能性と限界、改正法の問題点について考察を加える。この点、前段階の研究が基礎となるが、申請者としては、現時点において、平成15年に改正された新規定である民事執行法173条を弾力的に活用することにより、間接強制と代替執行を有機的に結合させ、同時並行を認める事で、迅速な執行のため手続の柔軟化による対応が可能であるとの理論的示唆を得ることができると考えている。 第2に、原子力災害に対する法的アクセスのアドバイス機関として、法テラスが、福島県においては、新設され、福島、会津、二本松、ふたばにおいて、活動を本格化しているが、その活動に対するユーザーのニーズの検証は、不充分である。そこで、先行実施し法テラスの活動調査を分析し、東日本大震災の被災地固有のリーガスサービスについて理論的検証を行う。その際、被災地における法的紛争処理の窓口である法テラスの実態調査報告書を補完する理論的な検証を加え、特に、除染をめぐる放射線の差止め、放射性物質の除去等の原状回復を中心に、執行手続の柔軟な対応を模索していく。
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Research Products
(3 results)