2014 Fiscal Year Research-status Report
債権者の不協力による履行障害とドイツ給付障害法における体系転換
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26780063
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
坂口 甲 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 准教授 (20508402)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 債務不履行 / 後発的不能 / 危険負担 |
Outline of Annual Research Achievements |
プーフェンドルフに遡るとされる後発的不能論は、18世紀の自然法の著作に受け継がれた。当初の後発的不能論は、原始的不能の準則を転用する形で形成された。また、その効果は、債務者を債務から解放する点に限られていた。損害賠償からの免責事由は事変であり、危険負担は事変論の中で扱われた。この時代に債務解放効として後発的不能が選択されたのは、与える債務だけではなく、為す債務にも履行強制が認められるに至ったからである。 19世紀になって、サヴィニーの影響を受けた論者は、危険負担を後発的不能論の中で扱うようになった。19世紀中葉に現われたモムゼンの不能論もこの系統に位置づけられる。モムゼンは、原始的不能の準則を後発的不能に転用するのではなく、後発的不能には、原始的不能とは異なり、「Casus a nullo praestantur(何人も事変について責めを負わない)」準則を適用した。こうして、後発的不能法に独自の性格が与えられた。また、無責の後発的不能が事変に取って代わり、事変論は、無責の後発的不能論となった。こうして、無責の後発的不能は、債務者の債務解放事由であると同時に、債務者の免責事由に位置づけられた。また、危険負担は、債務者無責の後発的不能により債務者が債務から解放された場合における反対給付の帰趨として議論されることになった。 こうして形成された後発的不能論の大枠は、普通法学に受容されたばかりでなく、ドレスデン草案と部分草案にも引き継がれた。 しかし、これらの草案を基礎としたドイツ民法典は、無責の後発的不能から免責事由としての効果を取り去った。また、債務解放効と結びつく後発的不能の意味を限定し、種類債務の主観的不能は債務者を債務から解放しないものとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、契約において債権者側の事情により債務者が履行障害に陥った場合に債権者がどのような責任をなぜ負うかについて、法理論的な検討を行うことを目的としている。そこでは、受領遅滞と債権者の責めに帰すべき事由による不能の検討が欠かせない。19世紀の受領遅滞制度は、遅滞という特殊な責任発生原因の中に位置づけられた。しかし、受領遅滞制度をめぐる議論の変遷の意味を理解するためには、遅滞論の外側にある給付障害体系の展開の中に受領遅滞制度を置いて観察しなければならない。この外側にある給付障害体系の展開として注目されるのが、後発的不能論の展開である。2014年度の研究は、18世紀から19世紀にかけてのドイツにおける後発的不能論の展開を明らかにしている。これは、本研究の目的を達成するために必要不可欠な基礎的部分である。よって、本研究は、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
18世紀から19世紀にかけてのドイツにおける後発的不能論の展開について、2015年度中にその研究成果を論文の形で公表することにしたい。 後発的不能論の展開の中で登場する債権者の責めに帰すべき事由による不能については、債権総論レベルの立法資料だけでは、その内容を十全に把握することができないおそれがある。そこで、賃貸借・雇用・請負に関する契約各則の特則にも目を向けながら、さらに研究を重ねたい。
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