2015 Fiscal Year Research-status Report
債権者の不協力による履行障害とドイツ給付障害法における体系転換
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26780063
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
坂口 甲 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 准教授 (20508402)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 債務不履行 / 後発的不能 / 危険負担 |
Outline of Annual Research Achievements |
1 1784年に成立したプロイセン一般ラント法は、不能という法概念を履行障害類型として明文で規律した。これは、損害賠償法と危険負担に関する準則に見出される。こうして、おそらく史上初めて、後発的不能は、履行障害類型として重要な意味を持つに至った。もっとも、プロイセン一般ラント法は、過失(culpa)による義務違反を中心的な構成要件とする損害賠償規範とは別に、不能を構成要件とする一連の履行障害準則を置いたにとどまり、履行障害法全体が不能を中心に構成されたわけではない。 2 履行障害法における不能の役割が劇的に拡大したのは、モムゼンの不能論によるところが大きい。しかし、必ずしもモムゼンが不能中心の体系を独力で作り出したわけではない。ヴェヒター、サヴィニー、コッホらによって、不能中心の体系はすでに準備されていたと言うことができる。第1に、ヴェヒターは、危険負担の第一原理として、「不能なことの債務は存在しない(Impossibilium nulla obligatio)」という法格言を据えた。このことは、危険負担と不能概念の連結を生じさせる1つの重要な契機となった。第2に、サヴィニーは、客観的不能と主観的不能を区別すると同時に、危険負担と不能概念とを連結した。さらに、彼は、債務転形論を主張した。すなわち、債務者の故意または過失によって債務関係が侵害され、その侵害を除去することが不能であるときは、債権者は、不能になったものの代償(損害賠償)を請求できる。第3に、プロイセンの法律家であるコッホは、履行障害法の中心に不能を据えた。彼は、債務の履行ができる場合と不能である場合とに分け、不能である場合は、事変によって不能である場合(危険負担)と債務者の故意・過失によって不能である場合(債務転形)に分けて論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、契約において債権者側の事情により債務者が履行障害に陥った場合に債権者がどのような責任をなぜ負うかについて、法理論的な検討を行うことを目的としている。具体的には、不能法、債務者の帰責事由、積極的債権侵害等の法制度・法概念の19世紀・20世紀ドイツにおける史的変遷を追跡することによって、債務不履行を中心とする給付障害法体系が義務違反を中心とする体系へと転換したことを明らかにすることを目的としている。 2016年3月時点では、19世紀ドイツにおける不能法(原始的不能を除く)の理論展開がほぼ明らかにされたと言える。これに対して、債務者の帰責事由や20世紀の理論展開には検討が及んでいない。その意味では、研究の進捗状況は遅れていると評価できる。 しかし、今後の研究の推進方法でも述べるように、19世紀ドイツにおける不能法の展開と関連の強い積極的債権侵害論の成立に今後の研究対象を絞るということを前提とすれば、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の土台を構成している18世紀から19世紀にかけてのドイツにおける後発的不能論の展開について、2016年度中に論文を公表する。また、それに先立って、不能法を研究しているドイツの研究者と意見交換を行う。 また、債務不履行を中心とする給付障害体系が義務違反を中心とする体系へと転換したことを明らかにするための素材を絞り、積極的債権侵害論の成立について研究を進めたい。このように研究対象の素材を積極的債権侵害論の成立に絞るのは、積極的債権侵害論の成立が不能論の展開と密接に関連しており、そうすることによって、研究全体の見通しを良くすることができると考えられるからである。
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