2015 Fiscal Year Research-status Report
現代アメリカの公職選挙と支持基盤の変容:分極化時代の政党ネットワークの形成過程
Project/Area Number |
26780077
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡辺 将人 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (80588814)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | アメリカ / 公職選挙 / 政党 / 民主党 / 共和党 / 分極化 |
Outline of Annual Research Achievements |
課題研究二年度目は、第1に2000年代後半以降にアウトリーチ戦略を飛躍的に深化させたインターネット新技術の役割について整理した。2000年頃までのインターネットの新技術は、ホームページの開設や動画のアップロードのような「空中戦」の二次形態と見られたが、ソーシャルメディアの誕生で草の根のオンライン組織を形成し「地上戦」と融合するに至った展開を2008年以降の事例で確認した。また、アウトリーチ戦略の実相を予備選挙段階、全国党大会段階、政権運営段階の三層から検討した。 第2に2016年大統領選挙をめぐる現地調査を行った。8月の調査ではアイオワ州で共和党、民主党の候補者の選挙運動において、州および郡の政党委員らに聞き取り調査を行い、両党において独立系候補が反エスタブリッシュメントの潮流を捉えて、既存の二大政党内で支持を高める現象について観察した。争点の抽出と動員手法に的を絞り、1月末から2月にかけて、アイオワ州シーダーラピッド、アイオワシティ周辺にて、民主党・共和党双方のアイオワ党員集会に関して準備段階から当日と事後総括まで現場観察と聞き取り調査を行った。また、ニューハンプシャー州マンチェスター周辺で両党の活動家の「地上戦」の現場を調査した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アウトリーチ戦略についての成果物として『現代アメリカ選挙の変貌―アウトリーチ・政党・デモクラシー』(名古屋大学出版会)を公刊した。第1にニューメディアの専門家がニューメディアの選挙運動の応用に注目した研究とオンライン組織化に基づく「草の根」選挙運動の研究などを再検討し、 ニューメディアの応用が政党政治に持つ意味とアウトリーチ活動の効果が先行研究でどこまで明らかにされているのかを批判的に吟味したこと、第2に アウトリーチ戦略の概念、アクター、対象、活動の内容を文献資料、参与観察、聞き取り調査さによる質的調査により総合的に分析したこと、第3にアウトリーチ戦略が従来のメディア選挙に取って代わるものか、それともそれを補完するものなのかを考察したこと、第4にアウトリーチ戦略の効果、限界を検討し、アウトリーチがアメリカの選挙運動と政党政治をどのように変えたのか、同戦略がどのような問題を含んでいるかの分析を行った。 また、現地調査においては独立系候補の二大政党内における善戦が政党の支持者連合に与える影響を分析する上で重要となることが予想される2016年大統領選挙の党員集会・予備選挙で、相当数の聞き取り調査の蓄積を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、2016年大統領選挙の本選挙をめぐる現地調査をもとに、政党や候補者のアウトリーチ戦略の特質を2012年選挙以前との比較で観察する。特に共和党と民主党で顕著な差異があるか、党内の穏健派とリベラル派や保守派などに対してどのような統合的アウトリーチを行っているか、それが支持者連合を形成しているか明らかにする。共和党側では従来の共和党の保守派にも穏健派にも該当しないドナルド・トランプ氏の指名獲得をめぐる動向から共和党の支持者ネットワークに地殻変動的な変容があるかが焦点になる。他方で、民主党においても長期化する予備選挙の結果、民主党内の支持者ネットワークの変質の方向性が検討対象となる。また、アウトリーチにおける政党ネットワークの主導権の主体をめぐる問題、具体的には陣営の有権者データやノウハウがどこまで政党組織とシェアされるのか、政党全国委員会の役割の吟味も必要となろう。
|
Research Products
(5 results)