2015 Fiscal Year Research-status Report
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26780082
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
境家 史郎 首都大学東京, 社会(科)学研究科, 准教授 (70568419)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 政治参加 / 投票参加 / 政治的平等 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度では、前年度に得た着想に基づき、1990年代の投票参加格差構造変化のメカニズムに関する実証分析を進めた。アンソニー・ダウンズの合理的投票者モデルから、「政党間のイデオロギー距離が大きい(と認識されている)ほど、有権者の投票参加が促される」との理論的含意が得られるが、日本の事例でこの点を実証的に検証した研究はこれまでほとんどなかった。そこで本研究では、1983年総選挙および2012年総選挙時に行われた調査のデータを比較分析し、当理論仮説の妥当性を検証した。結果として、政党間のイデオロギー差異認識が投票参加を促す効果は、1983年では観察されなかったのに対して、2012年ではそれを確認することができた。 さらに、2012年において、「女性」「低年齢層」「低学歴層」が、政党間イデオロギー差異を認識しない傾向が強いことも明らかにした。「女性」「低年齢層」「低学歴層」は、いずれも近年、投票率が相対的に低下している集団である。以上の結果を踏まえると、近年の選挙においては、これらの集団にとって政党間の違いがより見えづらくなっているために、投票参加意欲が失われている、と解釈することができよう。この点は、1990年代以降に見られる参加格差構造変化のメカニズムに関する、新しい議論として提示できる。 以上の結果は学術誌『レヴァイアサン』に掲載された。またこの着想をさらに発展させ、同様の分析を国際比較の視点から行う研究に着手した。具体的には、「Comparative Study of Electoral Systems: CSES」データを用い、マルチレベル分析によってダウンズ理論を検証することを開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の「今後の研究の推進方策」では、平成27年度中に「有権者の政党間イデオロギー差異認識と投票参加の関係に関する分析結果を出版することに注力する」としていたが、予定どおり、学術誌『レヴァイアサン』に研究成果を刊行することができた。研究成果の出版は、研究課題申請時では、当該年度では予定していなかったことであり、この点は事前の期待以上の成果であると評価できる。 また以上の研究の過程で、「政党間イデオロギー差異認識と投票参加の関係」については、これを国際比較の観点から掘り下げることで、さらに大きな研究成果を上げられると見込まれたため、この分析にさらに注力することとした。これは当初の研究計画では予期していなかった、新しい魅力的な(国際的にもインパクトを与えうる)研究課題の発見であると、評価することができる。 他方で、そうした予定変更を大きな理由として、当初の研究予定の柱の一つであった「投票外参加に関する分析」については具体的成果が上がる段階に至っていない。有権者の選挙におけるインターネット利用の問題については、インターネットの利用者自体が過少であることが分かり、統計分析を加えることが困難であることから、それ以上の追究は断念している。その一方で、平成28年3月には、現実の地方選挙を参与観察する好機に恵まれるなど、有権者の選挙運動参加に関する分析を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、平成28年度は「前年度までに得た結果のとりまとめと未発表の研究成果の報告、出版に専念する」としていた。この予定のとおり、5月に開催される日本選挙学会において、「有権者の政党間イデオロギー差異認識と投票参加の関係」に関する国際比較データ分析の結果を報告する。そこで得られたフィードバックを活かしながら、論文の改訂を進め、最終的には英語論文として海外ジャーナルへの投稿を進める予定である。この作業は、日本政治論のみならず政治行動論全体への貢献につながる重要課題と捉えており、特に力を注ぎたいと考えている。 これに加えて、「戦後日本における投票参加格差構造の変化」という論点に関して、研究代表者の過去の研究(境家 2013)の成果を敷衍・補強する分析を進める。具体的には、従来の学術調査を網羅的に、また直近の国政選挙・地方選挙のデータも加えた分析を行うことで、戦後日本において教育程度と投票参加の関係がどのように変化してきたのかを、体系的に明らかにする。この成果はやはり最終的に海外ジャーナルで出版することを目標としている。そのために、平成28年度中に、同成果を英語論文としてまとめる予定である。 以上の課題を中心に据えつつ、残る「投票外参加の分析」についても、可能な限り、具体的成果が得られるよう、なお分析を進める方針である。
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Causes of Carryover |
必要な物品を購入するには足りない小額の残金が生じたため、次年度予算と合わせて使用することが合理的と判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度予算から不足分を足し、研究に必要な洋書(1万円程度)の購入に当てる計画である。
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