2014 Fiscal Year Research-status Report
政治的リアリズムの再構成:政治理論のディシプリン確立に向けて
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26780097
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
乙部 延剛 茨城大学, 人文学部, 講師 (50713476)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 政治的リアリズム / 政治学方法論 |
Outline of Annual Research Achievements |
存在・当為の二分法に囚われない政治理論のあり方を探求するという研究目的遂行のため、本年度は交付申請書で述べた二つの課題のうちのひとつ「リアリズム政治理論の批判的検討」に主に取り組んだ。 まず、7月にカナダ・モントリオールで開催された国際政治学会(IPSA)において、"Two Forms of Political Realism: Weberian and Nietzschean Realisms"と題した研究報告を行った。本報告では、現在政治理論において提唱されているリアリズムのうちに、それと意識されないまま二つの異なる「リアリズム」観が存在することを指摘したものである。 また、10月に日本政治学会年次大会で行った報告「どの実践に、どうやって架橋するのか:政治理論の役割の再検討」では、レイモンド・ゴイス、バーナード・ウィリアムズという「リアリズム政治理論」の論者の議論を詳細に検討し、上で指摘した二つのリアリズム観が、同一の論者のなかにおいてすら存在することを指摘した。なお、同報告については、改稿のうえ、査読誌に投稿中である。 また、これらの実績に加え、交付申請書で述べた「異なったリアリズムの探求」についても研究を進めた。9月にはオーストラリア政治学会において、"To Speak in One's Own Voice is to Speak in Cliches: Gustave Flaubert's Radical Criticism of Democratic Opinion-Formation"という報告を行い、小説家ギュスターブ・フローベールの「文学的リアリズム」が持つ政治的インパクトについて検討した。また、闘技デモクラシー論がもつ「現実の動態を把握する」というリアリズム的側面について研究を進め、一部を「デモクラシー」という原稿としてまとめ『原理から考える政治学』(仮題、平成27年出版予定)に寄稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書において、平成26年度に取り組むとしていた「リアリズム政治理論の批判的検討」については、国内外(IPSA大会および日本政治学会年次大会)で学会報告を行ったほか、邦語論文を取りまとめ投稿することができたので、概ね順調に研究を進めることができた。 また、申請書では平成27年度に取り組むとした「異なったリアリズム」についても、いくつか研究を進め、国際学会報告をひとつ(オーストラリア政治学会年次大会)と邦語の共著への寄稿という成果をまとめることができた。 他方、学会報告や、そのためのウェブ上への論文の公開をのぞき、本年度は成果を刊行物として出版するには至らなかった。とはいえ、刊行には時間を要し、実際、いくつかの原稿は出版に向けて順調に推移している。 これらのことから、おおむね順調に研究を進展させているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、平成26年度に取り組んだ課題について、引き続き出版物としての成果公表を目指すとともに、申請書で述べた第二の課題「異なったリアリズムの探求」により本格的に取り組む計画である。 まず、去年からの引き続きの課題としては、現在投稿中の邦語論文について、刊行を目指す。 また、「異なったリアリズムの探求」においても、昨年度前倒しの形で取り組んでいた研究(オーストラリア政治学会で報告した、フローベールにおける「文学的リアリズム」の政治的含意に関する研究)があるが、現在、同報告の一部を発展させた内容を「政治思想にとって小説とはなにか?:フローベールとべもクラシー」(仮題)という原稿にまとめつつある。この原稿については、『特別講義政治と文学』と題された論文集の一章として寄稿する予定である。 加えて、「異なったリアリズムの探求」について、より本格的に取り組みを進める。具体的には、哲学者ジル・ドゥルーズの方法論を研究し、その政治理論への寄与を明らかにすることを目指す。研究成果については、夏にアメリカ政治学会(APSA)年次大会で報告することを計画しているほか、査読誌への投稿を目指している。
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Causes of Carryover |
3月に海外出張(研究打ち合わせ)を行う計画が年度途中に立ち上がり、そのためにパソコン等物品購入を控えていた(これらの物品については代替として旧来用いていた私物でやりくりした)。だが、申請者の日程など諸事情により、結局海外出張の計画は取りやめとなり、その結果、次年度使用額が発生することとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上の理由で記したように、次年度使用額として残った金額は、もともと物品購入に充てる予定であったものを、出張のために使用を控えていたものである。平成27年度は、本来の計画通り、物品購入に充てる予定である。
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