2014 Fiscal Year Research-status Report
情報公開方法の違いが社会厚生に与える影響に関する理論研究
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26780121
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中村 友哉 大阪大学, 社会経済研究所, 講師 (70706928)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 情報公開政策 / 社会厚生最大化 |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究では、情報公開方法の違いが社会厚生に与える影響を分析するという課題に取り組んでいる。平成26年度は、当局の情報を獲得するためには情報使用料を支払わなければならないという設定を導入した理論分析を行った。具体的には、当局の情報を利用する市場参加者はτの情報利用料を支払わなければならないが、利用しない場合は支払う必要がないという設定をCornand and Heinemann(2008)の理論モデルに導入した。その結果、次のような均衡が存在することを示すことができた。 はじめに、当局がある固定価格τで情報を販売する状況を分析した。このときは、各市場参加者が情報を購入する費用は、情報利用者数に依存せず一定になる。その一方、情報を購入する便益は、ケインズ型美人投票ゲームの特徴である戦略的補完性によって、情報利用者数が増えるほど増加する。したがって、ネット便益は利用者数に関して右上がりの関数になり、部分公開均衡が達成されることが示せた。ただし、部分公開均衡は不安定な均衡であることが分かった。なぜなら、戦略的補完性が存在するためにエージェントの反応関数が右上がりになるため、部分公開均衡よりもわずかに多くの(少ない)利用者が情報を購入すると、完全公開均衡(非公開均衡)に大きく変化するからである。この結果は、部分公開政策の実行が難しいことを意味している。次に、均衡が不安定になる問題を解決する方法を提示した。具体的には、利用者数が増加すると情報利用料が高額になるような価格体系を導入した。その結果、政府が適切に料金設定を行うことによって、部分公開均衡が安定的になることを理論的に示した。 以上の結果は、中央銀行をはじめとする当局の情報の透明性が活発に議論されている中で、政策提言としての価値も高いと考えている。研究成果は大阪大学社会経済研究所のディスカッションペーパーとして公表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題における26年度の計画は当初の計画以上に進展した。順調に理論モデルを構築し、その結果をディスカッションペーパーとして公表することができた。現在、当該研究成果を国際査読誌に投稿している。26年度の計画が順調に進展したことを受けて、27年度計画を前倒しで取り組んだ。 また、26年度の研究計画に取り組む過程で、新たな研究課題が見つかった点は非常に大きな成果であった。具体的には、美人投票ゲーム等で高次の予想を行う際の出発点となるLevel-0 agentの仮定が、既存の研究文脈にから得られる知見では不十分である点を発見した。今後はこの課題にも取り組んで行く計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度に取り組む計画であった課題は、26年度の計画が計画以上に進行したため、前倒しで取り組んでいる。ただし、この研究に関して、我々が当初想定していたよりも複雑な要因が絡んできて、理論モデルの分析が難航している。均衡は導出できたのだが、パラメータが複雑に影響し合っているために、解析的な分析が困難だという課題に直面している。我々の予想した均衡は存在するが、それ以外の均衡も多く存在することがわかった。そのため、数値計算によって結果を分類する等、何らかの工夫が必要になってきている。また、理論上は複数均衡になる状況も存在するため、経済実験を行うことも計画している。
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Causes of Carryover |
予算の申請段階では、26年度の課題に関しても数値計算が必要であると考えられたため、Mathematicaを購入する予定であった。しかし、26年度に取り組んだ課題に関しては共同研究者との研究打ち合わせの機会も多く作ることができて、当初の想定以上に解析的な分析が順調に行えた。そのため、旅費に関しては当初の計画以上になったが、Mathematica購入費用が必要ではなかったために、予算が余ることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度に予定している研究計画では、先の「今後の研究推進計画」でも記述したように、解析的な分析が困難な状況に陥っているため、Mathematicaが必要になっている。そこで、今年度はMathematicaを導入するため、繰越分を充当する計画である。他の予算については、計画通りの執行を予定している。
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