2014 Fiscal Year Research-status Report
名目金利の非負制約を考慮した動学的一般均衡モデルのマクロ実証分析への応用
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26780124
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
廣瀬 康生 慶應義塾大学, 経済学部, 准教授 (50583663)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マクロ経済学 / 金融政策 / DSGEモデル / ベイズ推定 / ゼロ金利 / デフレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度中は、まず、名目金利の非負制約の存在によって定常状態におけるインフレ率が負となる「デフレ均衡」が生じるモデルを構築し、日本のマクロ経済データを用いて推定を行った。推定の結果、標準的なモデルでインフレ率の反応がプラスになるような需要ショックに対して、デフレ均衡の下ではインフレ率の反応がプラスにもマイナスにもなり得ることが分かった。分析結果は「An Estimated DSGE Model with a Deflation Steady State」というタイトルで論文にとりまとめ、3か所の国際学会で発表し、Centre for Applied Macroeconomic Analysis (Australian National University) のワーキングペーパーとして公開した。本論文は、学術雑誌への投稿に向けて改訂中である。 次に、名目金利の非負制約を考慮せずにモデルのパラメータ推定を行った場合に、推定値にどのようなバイアスが発生するのかを調べた論文「Interest-Rate Lower Bound and Parameter Bias in an Estimated DSGE Model」(井上篤氏との共著)の改訂作業を行った。分析の結果、名目金利の非負制約にバインドする確率が高くなるにつれて、金融政策ルールに関するパラメータの推定値に大きな歪みが生じることが分かった。本論文は、1か所の国際学会で発表した後、Journal of Applied Econometricsへの掲載が決まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
名目金利の非負制約を考慮した動学的一般均衡モデルの解法には、Jung, Teranishi, and Watanabe (2005)、Eggertsson and Woodford (2003)、Bodenstein, Guerrieri, and Gust (2013)が用いている線形モデルの解法を応用した解法と、Fernandez-Villaverde, Gordon, Guerron-Quintana, and Rubio-Ramirez (2012)やGust, Lopez-Salido, and Smith (2012)が用いているモデルを非線形のまま取り扱う解法があり、本年度までに実施した研究では、前者の解法について検討を行った。こうした解法を、日本のマクロ経済データを用いた実証分析と推定パラメータのバイアスに関する分析に応用し、上記2本の論文を作成したことから、おおむね順調に進展していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、名目金利の非負制約を考慮した動学的一般均衡モデルを取り扱う際に、モデルを非線形のまま取り扱う解法について検討を行い、実証分析への応用を目指す。特に、Heer and Maussner (2009)で紹介されているparameterized expectations法やprojection法が有力な手法であると考えられることから、こうした数値計算手法の習得にも注力したい。 また、正の目標インフレ率周辺での均衡とデフレ均衡の間を時間の経過とともにスイッチする可能性を考慮した動学的一般均衡モデルの解法についても検討を行う。 モデルの解法に関する問題が解決したところで、どのような推定手法を採用すべきかを検討する。完全に非線形なモデルの尤度関数を評価する方法として、particle filterと呼ばれる手法が開発されているが、計算負荷が極めて高く、既存のPCでは極めて単純なモデルしか推定できない。本研究では、Gust, Lopez-Salido, and Smith (2012)による効率的なparticle filterの活用を検討するほか、simulated method of momentsやインパルス応答関数によるminimum distance estimation等のシミュレーション・ベースの推定方法も試す。
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Causes of Carryover |
27年度からサバティカルで米国ペンシルバニア大学にて研究を行うことが決まったこともあり、次年度以降の予算に余裕を持たせるために、26年度は当初計画よりも研究費の使用を節約した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度は、米国内外での国際コンファレンスやワークショップにおいて論文報告を行う機会が増えることが予想されており、そのための旅費が研究経費の殆どを占めることになる。その他、論文の英文校閲や学術雑誌への投稿にかかる費用にも使用する予定。
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