2016 Fiscal Year Research-status Report
情報の限定性と協力行動:絶対的・相対的な罰則基準の比較
Project/Area Number |
26780127
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
竹内 あい 立命館大学, 経済学部, 准教授 (10453979)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 実験経済学 / ゲーム理論 / 社会的ジレンマ / 公共財供給ゲーム / 情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの社会問題の背景には、人々の個人合理的な選択の結果が社会的に望ましい結果と一致しない「社会的ジレンマ」の構造があると言われている。社会的ジレンマ状況において人々により協力的な行動を促すための制度のひとつとして罰則制度がある。多くの罰則制度が協力しなかった人は全員罰される絶対的なものとして設計されるが、一方で制度の執行上は協力をしなかった人の中で一番協力しなかった人が罰される相対的なものとして運営されることがある。本研究では、特に情報量の限定性に着目し、それが相対的基準と絶対的基準の罰則制度で達成される協力率や効率性に及ぼす影響を分析している。 昨年度は主に一部の人々の行動しか観測できないパーシャルモニタリングの場合について考察を行った。罪を犯す人が増加するとそれを検知することが難しくなり取り締まりが困難になることは Congestion in Law Enforcement と呼ばれている。ここではそれを社会的ジレンマ状況の文脈で分析するために、協力しない人の人数が増加するにつれて彼らの行動を検知し難くなり、罰を与え難くなるモデルを考察した。理論的には、罰が十分に強く協力を導くのに有効な場合、両基準ともすべての意思決定主体がルールを守り協力する良い均衡とすべての意思決定主体が協力しない悪い均衡が存在するが、後者の均衡は相対的な罰則基準の方が悪いながらもある程度協力するため効率的となる。そのため、両基準とも良い均衡と悪い均衡が同程度存在するならば、相対的基準でも絶対的基準と同程度かそれ以上の効率性を達成できる。この点を平成27年度実施した実験室実験で検証した。その結果、相対的基準よりも絶対的基準の方が良い均衡に近い行動を選択した被験者が多く、全体的な平均協力率は絶対的基準の方が良くなった。しかし、この実験はサンプルサイズが小さいため、追加的な検証が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究当初予定していなかった新しい研究プロジェクトに関わることになり、その研究プロジェクトの期限が一年間であったため、そちらを優先させてしまった。その結果本研究へのエフォート率を変更せざるをえなくなり、当初予定と比べると大幅に遅れてしまった。そのため、研究期間の延長を希望し、2017年度に研究を完成させることとした。しかし、そのプロジェクトに携わったことによる本研究への正の波及効果もある。まず、そのプロジェクトを通じて所属大学で経済学実験を実施するための手法と人的ネットワークを構築することが出来たため、それを使って滞っていた本研究の実験を所属している大学でも実施できる目途がたった。また、そのプロジェクトでも情報量が社会的ジレンマ状況での効率性の改善に与える影響を分析している。罰則制度は絡んでいないが、そこでの知見を本研究にも活かしていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、研究実績の概要で述べたパーシャルモニタリングのもとでの絶対的・相対的な罰則制度の比較に関する研究について、罰が有効な場合の追加実験を行う。また、罰が有効ではない場合、理論的には良い均衡が両基準からなくなり、絶対的基準の場合には全員が全く協力しないのが均衡となり、相対的基準の場合には全員が確率的にある程度協力するのが均衡となる。そのため、絶対的基準よりも相対的基準の方が良くなることが予想される。しかし、均衡の存在と存在条件は解っているが均衡での協力度が解けていないので、これを求め、実験室実験でも検証可能なようにパラメータの設定を調整する必要がある。 また、完全にモニタリングが可能な場合でも、実験室実験で意思決定を繰り返す場合、被験者が他者の選択結果について知りえる情報(以下、フィードバック情報)の量によって行動が変わることが知られている。絶対的基準と相対的基準を比較した先行研究では、かなり多くのフィードバック情報が与えられていたので、これを限定した場合にも先行研究と同じ結果が観察されるのか実験室実験を行い検証する。
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Causes of Carryover |
現在までの進捗状況でも述べたように、計画が遅れてしまっている分、使用できなかった金額が残っている。特に、計画をしていた実験の内、まだ実施できていない分が存在し、その分の研究費(被験者への支払いならびに実験補助のアルバイト代)が大きい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計画が遅れているために残っている金額なので、当初使用計画通り用いる。
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