2015 Fiscal Year Research-status Report
アダム・スミス以後の経済学と倫理――エディンバラを中心に――
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26780130
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Research Institution | Tokyo Rissho Junior College |
Principal Investigator |
荒井 智行 東京立正短期大学, その他部局等, 講師 (70634103)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 過剰人口 / 未開対文明 / スコットランド啓蒙 / 多様性 / デュガルド・スチュアート / マルサス / アダム・スミス / 地金論争 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度の研究目的は,デュガルド・スチュアートにおける文明対野蛮の経済思想を明らかにすることであった.19世紀初頭のブリテンにおいて,文明社会の変容が,経済学との関わりでいかに論じられていたのかを確かめるために,その時代を代表とするデュガルド・スチュアートの過剰人口論を詳細に検討した. この研究では,前年度に検討したスチュアートの『政治経済学講義』の「人口」やエディンバラ大学所蔵のマニュスクリプト,『学生ノート』の「人口」を,それぞれよりいっそう詳細に比較・検討を行うことにより,『講義』では論じられていない中国の過剰人口の内容について,スチュアートの未開対文明観も含めて分析した.そのほかに,スチュアート経済学における多様性論についても考察した. 研究プロセスは,次の通りである.前年度に行われた近代思想研究会での個人報告において,先生方から頂いた多くの御意見から1つ1つ再点検し,論文の改善に努めた.そして,スチュアートの過剰人口論のもつ経済学的な意味を探った.そして,スミスからスチュアートにかけて,文明対野蛮の思想がいかに変化したのかについても論究した.その成果は,「D.スチュアートの過剰人口論――アダム・スミスの中国論との比較を中心に――」『経済学史研究』(経済学史学会),第57巻(第1号) 73-95, 2015年7月へと結実させた. そのほかに,今年度は,スミス以後の経済学と倫理との関係で,地金論争期におけるマルサス経済思想がエディンバラ・レヴュアーに与えた影響についても考察した.この内容の成果として,「地金論争期におけるジェフリ,ホーナーとマルサス」(経済学史学会大会/滋賀大学, 2015年5月)で学会報告を行った.今後は,この報告から頂いた多くの御意見を参考にして,論文化していく必要がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,前年度に検討したスチュアートの過剰人口論をいっそう考察を加えたことのほか,地金論争期のマルサス,ジェフリー,ホーナーの経済思想を比較・考察したことは,今年度の本研究の達成度として十分といえる.その成果として,(1)『スコットランド経済学の再生――デュガルド・スチュアートの経済思想』(280頁)昭和堂,2016年2月 ,(2)「D.スチュアートの過剰人口論――アダム・スミスの中国論との比較を中心に――」『経済学史研究』(経済学史学会),第57巻(第1号) 73-95, 2015年7月,(3)『マルサス人口論事典』マルサス学会編 (担当:共著, 範囲:「D.ステュアートの反応」(154頁),「ヘンリー・ブルーム」(242頁),「フランシス・ジェフリー」(265-266頁),昭和堂,2016年2月,(4),学会報告「地金論争期におけるジェフリ,ホーナーとマルサス」(経済学史学会大会/滋賀大学, 2015年5月),(5)書評: Christopher J. Berry, The Idea of Commercial Society in the Scottish Enlightenment, Edinburgh University Press, 2013. しかし,スミス以後の経済学において,多様性がいかなる意味をもつかについて,デュガルド・スチュアートの多様性論に焦点を当てて検討しているが,その研究成果はまだ出ていない.また,上述の研究成果においても,不十分な箇所はまだ見られる.したがって,概ね順調に研究しているとはいえ,海外ジャーナルへの論文掲載も含めて,今後もさらにいっそう気を引き締めて研究していく必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進策として,研究会や学会報告を行いながら,論文の改善に努めていくことがあげられる.2016年6月にアメリカ経済学学会(History of Economics Society)で,報告を行う予定である(既にアクセプト済み).そこでの報告からのコメントや御意見を賜り,論文を完成させていく.また,スミス以後の経済学の展開を見るうえで,文明対野蛮に限らず,より広いパースペクティヴの中で考察していく必要がある.
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Causes of Carryover |
2016年2月に単著を刊行することができたが,特に12月から1月にかけて,この校正に多くの時間と労力を割くことになった.私にとって初めての刊行物だったこともあり,慣れない作業に多くのエネルギーを費やした.このことは,本研究の遂行に若干遅らせることになった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度の単著に費やした時間の分を,今年度の研究に労力を割く予定である.特に,2016年度の海外の学術誌の原稿作成において,視聴調査・資料分析とネイティヴ・チェック,米国で行われる国際学会報告などに充てる予定である.
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Research Products
(4 results)