2016 Fiscal Year Research-status Report
アダム・スミス以後の経済学と倫理――エディンバラを中心に――
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26780130
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Research Institution | Tokyo University of Social Welfare |
Principal Investigator |
荒井 智行 東京福祉大学, 国際交流センター, 特任講師 (70634103)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 貧困 / 地金論争 / アダム・スミス / デュガルド・スチュアート / マルサス / 多様性 / 人口 / 教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度の研究目的は2つある.1つは,地金論争期において,マルサスの経済思想がエディンバラ・レヴュアーにいかなる影響を与えたのかを示すことである.2つ目は,アダム・スミス以降の経済学の展開・変容を探るべく,デュガルド・スチュアートの経済学が「多様性」といかに関係しているのかを明らかにすることであった. 前者においては,「地金論争期におけるジェフリ,ホーナーとマルサス」(経済学史学会大会/滋賀大学, 2015年5月)で学会報告を行った内容の質をさらに高めるべく,スコットランド国立図書館等で収集した資料の分析を進めるとともに,フランシス・ホーナーの金融思想の特徴についても精査した.その研究成果として,論文「地金論争期におけるジェフリー,ホーナーとマルサス――ホーナーの金融思想に与えたマルサスの影響を中心に」(柳田芳伸・山崎好裕編『マルサス書簡のなかの知的交流――未邦訳史料と思索の軌跡』昭和堂,2016年11月)を発表した.そして,同書の附録の中で,マニュスクリプトの英訳を作成したほか,マルサス,エディンバラ・レヴュアーの7通の書簡を翻訳した. 後者については,『講義』全体の構成から,デュガルド・スチュアートの経済学の目的や方法について,ジェイムズ・スチュアートの多様性論との比較を通じて検討した.特に,『講義』の序論や人口の項に焦点を当てながら,D.スチュアートの経済学において,J.スチュアートと同様に,異なる国々や地域における法律,風土,生活様式などの違いといった多様性が重要な意味をもっている点を明示している.その成果として,「デュガルド・スチュアートにおける経済学の目的と多様性――ジェイムズ・ステュアートの多様性論との関連で」(益永淳編『経済学の分岐と総合』中央大学出版部,2017年1月)へと結実させた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述の「研究実績の概要」の中で触れた,アダム・スミス以降の地金論争の研究において,スコットランド国立図書館所蔵の資料分析は,当初の予定以上に,多くの時間を費やすことになった.資料分析については,マニュスクリプトの解読において,筆記体の文章が,大変読みづらい殴り書きで記されていたため,予想以上に多大な労力を費やしたからである.だが,筆記体→ブロック体→翻訳へと資料分析を堅実に進めていった結果,それぞれの資料内容が次第に明らかになっていった. 一方,スチュアートの多様性論の研究においても,『政治経済学講義』におけるスチュアートの経済学の目的・方法との関連で,多様性のあり方を考察することは,決して容易ではなかった.この点についての先行研究も不十分であることは認識していたが,『講義』の「人口」の解読は,当初の予定よりも多くの時間を費やした.『講義』の人口については,250ページもの長い項ゆえに,スチュアートの多様性論の特徴を示すことは,決して容易ではなかった.だが,個別の研究会での個人報告において,他の研究者から頂いた多くの御意見を1つ1つ再点検し,論文の改善に努めることにより,論点をより明らかにすることができた. これら2点の理由から,本研究の若干の立ち遅れは否めないが,いずれも共著書の刊行という成果で,2016年度に2本の論文を発表したことは,決して悲観的に捉えるべきではないと考える.年度内の英字論文の提出は間に合わなかったが,この点は現在進行中にあり,2017年度の早期の段階において,論文完成を目指す予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進策として,研究会や学会報告を行いながら,論文の改善に努めていくことがあげられる.2016年度において,スミス以後の経済学の展開と倫理との関係を示すための研究の1つとして,国際学会報告(益永淳氏との共同報告)として,‘Lectures on Political Economy at the East India College in the Nineteenth Century: T. R. Malthus, R. Jones, and J. Stephan’History of Economics Society Conference (at Duke University, USA)を発表した.そこでの報告から,外国人研究者の方々から,多くのコメントや御意見を賜った.今後は,これらの御意見を参考にしながら,論文を完成させていく予定である. 2017年6月には,経済学史学会(於徳島文理大学)で,個人報告を行う予定である(既にアクセプト済み).その後も,年度内の早期のペーパーの完成を目標に,スミス以後の経済学の展開を見るうえで,文明対野蛮の思想に限らず,より広いパースペクティヴの中で考察していく. さらなる推進方策として,これら2つの学会報告後の論文作成において,学会の研究者からコメントを賜る予定である.そして,『政治経済学講義』の当該箇所のほかに,スチュアートの道徳哲学に関する著作物の翻訳・分析を早期に終えるように努める.
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Causes of Carryover |
2016年度は,前任校からの所属変更に伴い,新たな大学に所属することになったが,校務の増加,より具体的には,クラス担任業務,校外活動,各委員会への参加と学生の就職支援,試験業務,補習講義,年間8コマの授業負担(特に後期は週11コマ)である.これらの教育負担が生じたことは,前年度の時には予想できないことであった.このことは,2016年度において,研究と教育とのバランスにおいて,予測不能な事態が生じたということは否めない. そのほかに,本研究で利用する資料の分析を集中的に行ったことも大きな要因の1つである.資料の分析において,殴り書きの英字の筆記体のマニュスクリプトの解析に,当初の予定に反して,多大な時間を費やした.当該年度の使用額をあまり利用しなかったことも理由としてあげられる.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年度において,所属大学の教育負担が増加したものの,2017年度では,赴任して2年目になることから,所属大学の教育業務についても,予め周知できている状況にある.それにより,本研究へのエフォートを前年度よりも高められると認識している. 2016年度において,本研究で資料分析による研究を十分に行うことができたため,次年度では,英字のフルペーパーの校閲費,調査費,資料の収集後のマイクロフィルムなどへの資料のデータ化などに使用計画を立てている.特に,本年度の資料分析により,さらなる一次資料の必要の有無も明確になったことから,2017年度における学会,研究会,各図書館への資料調査と資料のデータ化の費用の捻出については,まったく問題ないと考えている.
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Research Products
(3 results)