2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26780198
|
Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
鴨野 洋一郎 関東学院大学, 経済学部, 講師 (80631192)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 西洋史 / 経済史 / オスマン帝国 / 国際情報交換(イタリア) / フィレンツェ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度では、まず昨年度に引きつづき、15世紀フィレンツェの赤色染料輸入にかんする論文を学術誌に掲載すべく原稿の手直しを行った。論文で取り上げたカンビーニ商会にとって、イベリア半島(とりわけポルトガル)はバルカン半島とならびもっとも重要な赤色染料の輸入先となっていた。そこでこの時期のポルトガル経済にかんする論考を調査し、これまで研究してきたフィレンツェと東地中海との経済的関係にくわえ、西地中海との関係も視野に入れつつフィレンツェ国際商業の広範な活動を考察しようと試みた。しかしながら課題も多く、修正稿を作成したものの、その掲載には至らなかった。 つぎにフィレンツェ繊維工業史にかんする文献を調査し、入手可能なものを収集した。近年、フィレンツェ(さらにはトスカーナ)経済史研究の分野では多くの研究が公表されている。フィレンツェの経済活動において、毛織物工業および絹織物工業を軸とする繊維工業は重要な地位を占めていた。そこで繊維工業史について調査するには、これらフィレンツェ経済史にかんする研究を網羅的に集めていく必要がある。本年度は、近年の重要な研究であるリヨンにおけるゴンディ家の活動にかんする研究(S.トニェッティ著)やブリュッヘにおけるトスカーナ商人の活動にかんする研究(L.ガロッピーニ著)、リスボンにおけるある有名なフィレンツェ商人の活動にかんする研究(F.グィーディ=ブルスコリ著)などを収集した。そして、フィレンツェ繊維工業およびこれと密接に結びついていたフィレンツェ・オスマン貿易の展開を、ヨーロッパ=地中海世界を舞台に行われたフィレンツェ経済活動全体の中に位置づけるべく、これらの文献を調査した。 最後に、来年度夏に入稿する予定の原稿の構想を練り、関連する文献を収集し、史料(G.マリンギ書簡)の解読を進め、原稿の執筆を開始した。 以上が、本年度の研究実績の概要である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の概要】で最初に述べた15世紀フィレンツェの赤色染料輸入の研究については、修正稿を完成させたものの学術誌への掲載にまでは至れなかった。しかしこのテーマにかんしては、上述のF.グィーディ=ブルスコリによる研究のほか、イタリアとイベリア半島との経済的関係を論じた論文集(L.タンズィーニおよびS.トニェッティ編著)を入手し、調査することができた。さらには、染色史にかんする重要な研究も入手することができた。これをふまえ、来年度は論文の掲載をめざして原稿にさらなる修正を加えていく予定である。 【研究実績の概要】で二つ目に述べた繊維工業史にかんする文献調査については、近年の研究を中心に多くの文献を収集・調査することができた。ただ入手が困難なためにまだ調査できていない研究もあり、その調査が今後の課題となっている。また調査を終えたのちには、その結果を公表すべきであると考えている。 【研究実績の概要】で三つ目に述べた点については、本年度末にフィレンツェ商人G.マリンギの書簡の集中的な解読を行った。そこから、これまでの研究が明らかにしていない「貿易する織元」にかんする重要な知見をえることができた。本研究の目的の一つに、この「貿易する織元」すなわち織物を製造しながら国外で販売も行う会社の解明がある。そのためこの知見は、本研究の目的に向けた重要な一歩となるはずである。 以上の3点を総合すると、本年度の「研究の目的」達成度については、課題が残されたもののおおむね順調に進展していると考えられる。 以上が、現在までの達成度である。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度夏までは、【研究実績の概要】の最後で述べた研究を中心に行う。フィレンツェ商人の代理人としてオスマン帝国のペラ(今日のイスタンブル新市街)に滞在し毛織物販売や生糸購入などを行ったジョヴァンニ・マリンギの書簡が基本史料となる。今後は本年度に引き続き史料の読解を進め、書簡の内容から彼とフィレンツェ商人との関係を考察する。そして関連文献の調査をふまえた上で、原稿を執筆する。関連文献については本年度も収集に努めてきたが、今後はマリンギが共同事業を行ったメディチ家にかんする文献なども視野に入れ収集していきたい。 またこの研究と並行して、赤色染料輸入にかんする研究も引き続き進めていきたい。関連する上述の二つの文献のみならず、本年度収集・調査した繊維工業史にかんする文献や、染色史にかんする重要な研究もふまえ、原稿に修正を加える予定である。 さらに、フィレンツェ繊維工業史をめぐる近年の関連文献を継続して収集・調査し、その結果を研究会などで報告したい。中世ヨーロッパにおいて、イタリアはフランドルとならび繊維工業の一大中心地であった。しかし我が国では齊藤寛海などの研究をのぞき、中世イタリアの繊維工業を積極的に評価する研究がそれほど多くはなかった。そこでさまざまな機会でフィレンツェ繊維工業の歴史を取り上げ、近年イタリアで活発に行われている議論を整理し紹介したい。 以上の研究にくわえ、フィレンツェ国立古文書館所蔵のLibri di commercio e di famiglia, 5199および4715の解読も進めていきたい。両者とも15世紀後半にイスタンブルに滞在したフィレンツェ商人の帳簿であり、前述のマリンギ書簡研究において重要な比較材料となりうる。 以上が、今後の研究の推進方策である。
|