2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26780198
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
鴨野 洋一郎 関東学院大学, 経済学部, 講師 (80631192)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 西洋史 / 経済史 / オスマン帝国 / 国際情報交換(イタリア) / フィレンツェ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はおもに以下の2つの研究を実施した。 まず1つ目は、15世紀後半のフィレンツェが行った赤色染料輸入にかんする研究である。この研究は前年度から継続して行ったものである。本年度は、関係する研究文献をさらに収集・調査することにより研究を深化させていった。 研究内容の概要は以下の通りである。カンビーニ商会の備忘録に登場する赤色染料のデータをすべて収集し整理したところ、「グラーナ」と記される染料は地中海世界の東西から輸入され、高級原料としての価格を維持していた。他方で「ケルメス」と記される染料はもっぱら東地中海から輸入されていた。また赤色染料輸入の時代別変化を追うと、リスボンからの輸入の増大という特徴がはっきりした。カンビーニ商会は、さまざまな種類の赤色染料を地中海の東西から適宜調達することで、フィレンツェの繊維工業を支えていたのである。以上の研究内容は、2016年4月に刊行される学術誌に掲載される予定である。 つぎに2つ目は、オスマン帝国内に滞在していたフィレンツェ商人ジョヴァンニ・マリンギの書簡の研究である。マリンギはいくつかの会社や商人から商品を委託され、帝国内で販売する「オスマン貿易商」であった。研究では彼の書簡を丁寧に解読し、彼とフィレンツェの商人企業家ネーリ・ヴェントゥーリとの関係に着目しつつ書簡の内容を整理した。 その結果、以下のことが判明した。マリンギはネーリにたいし、一方では彼の人脈を通じて毛織物を調達する貿易商としての役割を、他方では多くの製品をつくらせる織元としての役割を期待した。マリンギは、これら2つの役割を果たすネーリをビジネス上の重要なパートナーととらえていたのである。以上の研究内容は、次年度刊行予定の共著に掲載される予定である。 以上が、研究実績の概要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の概要】で述べたように、本年度では2つの研究を中心的に進めてきた。 1つ目の赤色染料輸入の研究については、研究計画では1年目に調査を終了させるとしていたものの、2年目である本年度まで調査を継続させた。しかしその結果、当該テーマにかんしていっそうの知見を得ることができ、それを盛り込んだ研究内容を公表できる予定となった。 2つ目のジョヴァンニ・マリンギ書簡の研究については、研究計画ではこの書簡をメインの調査史料としていなかった。これまで会計帳簿を主たる調査対象としてきたため、研究計画でも帳簿を主要史料としたからである。しかし商業書簡はフィレンツェ商人の考えを具体的に知ることのできる史料群であり、とくにマリンギ書簡はオスマン貿易にかんする商人の貴重な証言となっている。そこで本年度は、このマリンギ書簡を主要な調査対象とすることにした。その結果、これまでの会計帳簿の調査からはわからなかったような新しい事実を見いだすことができた。そしてその事実を公表できる予定となった。この研究は、商業書簡という申請者があまり扱ってこなかった史料のジャンルを開拓する契機となるはずである。 もっとも、本年度計画していたフィレンツェ繊維工業史研究の調査については、上記のテーマとかかわるものにかぎり行ったものの、単独のテーマとして調査結果を報告するには至らなかった。ただ研究文献を幅広く収集することができたので、次年度の研究テーマとしていきたい。 以上の諸点を総合するならば、現在までの本研究課題の進捗状況は、まだ課題が残されているもののおおむね順調に進んでいると考えられる。 以上が、現在までの進捗状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
大きく分けて以下の3つが、今後の研究の方針となる。 まずルネサンス期フィレンツェ繊維工業史の研究を網羅的に収集し、整理することである。これは1年目、2年目ともに研究方針としていたものの、他のテーマを優先させたことによりあまり進まなかったテーマである。次年度はこれまで収集した研究文献を調査し、さらに他の文献も収集・調査していくことで、近年のフィレンツェ繊維工業史をめぐる論点を整理し、今後解決していくべき研究史的課題を明らかにしたい。そのさい、繊維工業とならびフィレンツェが展開した他の経済活動である商業や金融業にかかわる研究も調査し、フィレンツェの経済活動全体の中に繊維工業およびこれと強く結びついたフィレンツェ・オスマン貿易を位置付けたい。調査結果は研究会などで発表する予定である。 2つ目は、一橋大学社会科学古典資料センターが所蔵するメディチ家帳簿の調査である。この調査は当初の計画にはなかったが、帳簿がフィレンツェ・オスマン貿易を関係の深い史料であるとわかったため、次年度の主たる計画とした。次年度はこのメディチ家帳簿を丁寧に読み込み、帳簿の全体的な特徴や内容を明らかにする。そして調査結果を、学術誌に公表する。この研究は、新しい史料を利用することによりフィレンツェ・オスマン貿易にかんする新たな知見を提供できるものと期待している。 3つ目は、フィレンツェ国立古文書館が所蔵するLibri di commercio e di famiglia, 5199および4715の調査である。これらの帳簿の調査については2年目の方針でも盛り込んだが、まだ調査結果の公表まで至っていない。2つ目の研究テーマを優先するものの、これらの帳簿の調査も可能なかぎり行っていきたい。 以上が、今後の研究の推進方策である。
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