2016 Fiscal Year Research-status Report
利益還元と現金保有―ケータリング理論を通じた諸仮説の再検証―
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26780208
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
山口 聖 甲南大学, 経営学部, 准教授 (40548757)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | コーポレート・ガバナンス / 現金の価値 / 株式持ち合い |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ケータリング仮設から着想を得た、現金の価値とペイアウトの関係について、さらなる検証を行った。分析結果から、企業が配当を実施した場合、マーケットは、現金の価値が高い企業に比べて、現金の価値が低い企業による配当を高く評価することを明らかになった。また、現金の価値が低い企業が自社株買いを実施した場合、企業価値を高めることができるが、現金の価値が高い企業が自社株買いを実施したとしても、企業価値を高めることはできないことも明らかになった。今年度は、これらの結果に基づき、企業はペイアウトに際して、現金の価値を考慮する必要性があることを明らかにした論文を完成させ、国内ジャーナルに投稿した。三度の修正を行い、現在継続審査中である。 また、本年度は、昨年度レフェリーに指摘された、現金の価値が低く評価される要因が企業統治(コーポレート・ガバナンス)の脆弱さのために生じた、経営者による現金の無駄遣いにあるのかどうかを明らかにする研究を行った。米国において、ガバナンスの強さの程度は、敵対的な買収に対する防衛策が十分備わっているかどうかに基づいて測定される。日本では、そのようなデータが存在していないため、本研究では、同様の効果をもたらすとされ、日本企業に特有の株式所有構造である株式持ち合いを用いて分析を行った。分析の結果、持ち合い企業の現金の価値は、持ち合いに参加しない企業に比べて低く評価されること、現金が低く評価される理由が、持ち合い企業音経営者による余剰資金の無駄遣いにあることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の目的は、現金の価値を考慮したうえで、ペイアウトに関する諸仮説を再検証することで、企業がペイアウトを実施する理由を明らかにすること、そして、企業はペイアウトに際して現金の価値を考慮するべきであるのかどうかを明らかにすることにある。上述の通り、昨年度までの分析結果により、現金の価値が低い企業のペイアウトは高く評価されるため、企業はペイアウトに際して、現金の価値を考慮するべきであるという結果を得た。 しかしながら、論文投稿によって、なぜ現金の価値が低く評価されるのかを明らかにするべきであるという指摘を受け、その原因を解明するべく分析を行った結果、現金の価値を考慮したうえでペイアウトに関する諸仮説の検証を実施するまでに至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度末で研究期間が終了するため、現金の価値を考慮したうえで、ペイアウトに関する諸仮説の再検証を行うとした当初の研究計画を変更し、現金の価値に影響を与える要因と、そのメカニズムを解明したい。 先行研究によれば、現金の価値に影響を与える要因として、コーポレート・ガバナンスや、資金調達に関する制約がある。コーポレート・ガバナンスが現金の価値に与える影響については、昨年度の研究結果によって明らかにすることができたので、今年度は、資金調達に関する制約が現金の価値に与える影響を明らかにする。 資金調達に関する制約が強く、資本市場で資金調達が困難な企業の現金保有は、有益な投資プロジェクトの実施を可能にするため、資本市場に自由にアクセスできる企業の現金よりも高く評価される。資金調達に関する制約を表す変数として、企業規模や社債の格付けなど、様々な要因が考えられるが、今年度は、情報の非対称性に注目する。 情報の非対称性が大きい企業は、そうでない企業に比べて、資金調達が困難であると考えられる。企業が資金調達のために発行する証券(特に株式)は、本源的な価値に比べて過小評価されるからである。本年度は、先行研究に基づき、アナリスト予測を用いて情報の非対称性の指標を測定し、情報の非対称性から生じた資金調達に関する制約が、現金の価値を高めるのかどうかを明らかにする計画である。
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Causes of Carryover |
本研究課題採択後に大学を移籍することが決定し、申請額で購入を予定していたデータベースが、移籍先大学には完備されていたことから、データベース使用料を負担する必要性がなくなったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度が研究計画の最終年度であるため、研究期間中に行った研究を発表するべく、学会発表や海外ジャーナルへの投稿を行う予定である。
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Research Products
(1 results)