2017 Fiscal Year Research-status Report
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26780218
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
古瀬 公博 武蔵大学, 経済学部, 教授 (70401677)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | オークション / 流質品市場 / 古物市場 / コンフリクト / 呉服商 / 流通の近代化 / 明治期 / 商業史 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度においては,日本における競売市場の歴史的形成に関する調査を重点的に行った. 第1に,流質品市場の形成と,そこで見られてきた慣習の特徴について調査し,特に慣習をめぐる市場参加者間の対立の構造を明らかにした.具体的には,流質品市場では,「ポンヤリ(一本ヤリ)」と呼ばれる,買い手が同時に一度だけビッドを入れることができる方法が広く採用されているが,関西における市場では,第一位価格より一定比率で割り引いた価格を落札価格とするという「負かり」という慣行が近年まで採用されてきた.「負かり」は売り手の質業者から見れば,明確な根拠なく価格を引き下げるものとして批判の対象となり,買い手や市場運営主は「負かり」があることで高いビッドを入れやすくなる,という理由から,その正当性を主張している.オークション理論に基づけば,入札においては第一位価格オークションよりも第二位価格オークションのほうが効率的であるので,落札価格を第二位価格に近づける「負かり」には合理的な根拠があると評価することも可能であるが,東京などの有力な市場が「ポンヤリ」を採用していることから,市場間の競争を背景にして,関西においても「負かり」は廃止されたことを明らかにした. 第2に,明治期における競売会社に関する研究を進め,とくに福岡県で設立された博多競商株式会社と株式会社福博競売市場について設立動機や経営実態を明らかにした.両社は競売会社の設立ブーム期にあたる明治30年前後に設立され,博多競商株式会社は,呉服商の交換会を前身に持ちながら,取扱品を動産・不動産へと広げた会社であり,福博競売市場は,旧士族が発起人となり,既存の同業者間の競売市場には悪弊が多いと批判し,それに代わる合理的な競売市場を設立することを目的として設立された.この2社の分析によって,明治期における競売会社の経営実態を明らかにすることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古物・骨董品の業者間市場における調査に関して,インタビューやフィールドワークは順調に行うことができている.ただし,関西方面の流質品市場において特有の市場慣行に関しては,市場関係者に対するインタビュー調査が十分には進んでおらず,それは平成30年度における課題である.また,歴史研究に関してはある程度,史料収集を進めることができているが,横浜などの居留地における欧米の競売人に関する史料や,明治期において地方で設立された競売会社に関する史料は,まだ十分に集めることができていない. 研究成果の公表に関しては,すでに研究論文の刊行や,国内外での学会発表を実施しているが,海外の査読付き雑誌への投稿と改訂プロセスは進んでいるものの,まだ掲載には至っていないことが現状の課題である.現在投稿している論文の過程作業を順調に進め,掲載許可を得ることと,それ以外にも数本の論文を投稿することが平成30年度における目標である.
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度が本研究課題の最終年度であるので,研究成果の公表に重点を置きながら,追加的な調査課題にも着手していきたい.研究成果の公表という点においては,上記した,(1)流質品市場における慣行をめぐるコンフリクト,(2)明治期・福岡における競売会社,(3)居留地における競売商,(4)業者間市場における市場秩序の形成,といったテーマに関して国内外の学会誌に投稿する作業を進めたい.また,追加的な調査としては,業者間市場における鑑定機関の役割などの点について,インタビュー調査などを進めていきたい.
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Causes of Carryover |
平成30年度において追加的な調査を進めるために主に旅費などの支出が予想されたので,平成29年度においては資料購入等に学内の研究費を使用するなど研究費の効率的な使用に努めたことが次年度使用額が生じた理由である.使用計画は,調査に伴う旅費として使用する予定である.
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